祓魔
拉致
『お前の姿は他の人間には認識できねえみたいだが、空代希実はどうかわからねえ。強力な悪魔を憑けている上、おそらくそいつ本人が契約者だ。そいつにはお前が見える可能性もある』
龍神の声がワイヤレスイヤホンから響いた。龍神と守美は、空代希実の中学校付近のコインパーキングに停めてあるレンタカーの車内で待機している。レンタカーはつい先ほど用意したものだ。秀一たちはレンタカー屋で車を借りた後、用事をひとつ済ませてからこの場に向かった。
秀一が立っているのは、中学校の校門前だ。空代希実が秀一の姿を見て逃走しないよう、校門を通る前には見えない位置で待機している。秀一のスマートフォンのカメラの映像をリアルタイムで共有することで、龍神は現場の状況を把握している。
下校の時間になり多くの中学生が校門を通っているが、秀一に視線を向ける者は一人として居ない。
『そんな目に遭ったのは災難だがな捻木。どんな行動をしても周囲に認識されねえってのは利点だぜ』
龍神は、事前にコンビニで秀一に対する他人の認識について確認していた。秀一が大量のカップ麺を買い物カゴに入れたまま店員の目の前で店から出ようとしても、店員は気に留める様子は無かった。無論、カゴに入れたカップ麺は秀一が元通りに棚に戻した。
また、親と来店していた小さい子どもを秀一が抱き上げても、親も子どもも無反応だった。
自分がどんな行動をしても見咎められず、他人に干渉しても一切の反応を得られない状態になっているのだと秀一はわかった。
『あんな風に、空代希実も無抵抗で連れ去られてくれりゃあ楽なんだがな』
「…龍神先輩。来ました」
秀一の目の前で、見知った顔の女子中学生が校門を通過した。空代希実だ。
空代希実は校門の横に立つ秀一の存在に気づき、ぎょっとした顔を浮かべた。見えているのだ、と秀一は悟った。
『やれ』
イヤホンから短く発せられた龍神の声に弾かれるように、秀一は空代希実の右腕を強く掴み、腕を捻りながら素早く背後に回り込んだ。衝撃と激痛で空代希実は思わず倒れ込み、両膝を地面についた。剥きだしの膝が軽く擦り切れ、血が滲んだ。
反撃を許すことなく秀一は空代希実の腕を掴んだまま腰に膝を置き、細い体に全体重を乗せた。うつ伏せになった空代希実が苦しげな声を絞り出した。
「あ…なた…」
「動くな」
校門の前で女子生徒が成人男性に拘束されているという異常な状況であっても、秀一たちに目を向ける者は居なかった。
通報される可能性が無いことは秀一には安心を、空代希実には絶望を与えた。
『逃げようとすれば…』
「逃げようとすれば殺す。悪魔を呼び出しても殺す。何か言っただけでも殺す。わかったら黙って大人しくついてこい」
台詞は龍神の指示によるものだ。だが腹を括った秀一の言葉には有無を言わさぬ力強さと荒々しさがあった。普段より数段重々しい秀一の声の響きに空代希実は震え上がり、顔面を蒼白に染めてこくこくと頷いた。
『なんだ、ガキ相手にしても随分と簡単に制圧できたみたいじゃねえか。前にも同じことやったか?』
「やってませんよ!なんというか無我夢中で…」
空代希実の目と口をガムテープで覆い、両手を結束バンドで拘束した状態で秀一は龍神と守美が待つコインパーキングまで空代希実を連行した。
空代希実は、後部座席に座る龍神と守美の間に座らされた。足に異様な感触を感じた空代希実は、“それ”の正体を知り喉から音を鳴らした。
「やあお嬢さん。また会ったね。お母さんのこと、お借りしてるよ」
後部座席の下には、空代一子が拘束された状態で寝かされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます