結果

「…何もかも、私の過ちなのです」


 空代一子はそう話を締めくくると、小さくため息をついた。固く結んだ両手を見つめ、黙り込んだ。

 長女の花菜という子を亡くしてから精神のバランスを崩してしまった空代雲晴の話。今の話には、日記にあった霧華という次女の名が出てこなかった。空代一子が霧華の記憶を忘れてしまっているためだろう。秀一は話を終えた彼女にどう言葉をかけるべきかわからず閉口していた。秀一が助けを求めるように守美に目を向けた瞬間、守美は口を開いた。


「最も愛する家族のためなら誰であろうと他のものは二の次になる。その気持ちはよくわかる。理屈じゃないからね。そういうものは」


 その言葉に、空代一子は緩慢な動作で顔を上げた。空代一子が浮かべる表情は、まるで審判を受ける人間のような顔つきだった。


「だがその選択をしたのは他の誰でもない自分だ。選択の責任は背負わなくてはならないものだよ。一生ね」


 守美はスマートフォンを取り出し、画像フォルダを開いて一枚の画像を表示した。画像の一部分を拡大表示するとスマートフォンを病床のテーブルに置き、その画像を空代一子に見せた。空代一子は守美のスマートフォンを手に取ると、画面を目に近づけてそこに写された文章を読んだ。


「それ、読めるかな?」


2024年5月15日(水)

 お父さんが消えました。おさるさまが消してくれました。


「…?お父さん…おさるさま…?あ…の…この字って…」


「読めるならいいんだ」


 守美は空代一子からスマートフォンを取り上げると、メールアプリを起動した。未送信ボックスの中から開いたのは、この病院への道中で文面を打ち込んだ下書きメールだ。守美はその下書きメールの送信先アドレスに空代一子のアドレスを打ち込み、添付ファイルに空代希実の日記の写真をアップロードした上で送信した。空代雲晴に関する記述の部分だ。空代一子の服のポケットに入っていたスマートフォンが振動した。


「え…?あの…」


「私たちは帰るよ。一応は調査完了ということで、取り急ぎの調査結果はそのメールに書いてある。ちゃんとした調査報告書は後で作成するが、要らなかったら言ってくれ。これで依頼は達成とさせてもらうけど、望むような結果を持ってこれなくてすまないね」


「ちょっ…姉さん…!」


「調査結果としては不完全だが、怪異が関わっている異常な状況ではこれが精一杯だ。それに、後は家庭の問題だからね」


 守美は病床の仕切りカーテンを開けた。そのまま立ち去ろうとしたが、ふと気づいた様子で振り返ると忠告するように言った。


「ああ、娘さんとはちゃんと話をしておくんだね。君たち二人とも、生きてるんだから。まだやりようはあるさ」


 今度こそ立ち去っていく守美の背中を、秀一は空代一子に会釈した後で追いかけていった。空代一子は呆然とした様子でしばらくの間固まっていたが、やがて思い出したように守美が送付してきたメールを開いた。



From:12300405ss@■■■■■■.ne.jp

To:Kazuko19840830@■■■■■.com

Date:2024/05/20 月 10:31

標準な暗号化(TLS)が適用されています 【セキュリティの詳細を表示】


空代 一子 様

ご依頼の件、下記の通りご報告いたします。


・調査対象者:空代 雲晴 氏

・調査重点:行方調査

・調査対象者住所:東京都新宿区市谷砂土原町3丁目■-■ 市ヶ谷パレス 303

・当該住所家族構成:空代 雲晴(42歳)

          空代 一子(40歳)

          空代 希実(14歳)


調査結果

結論から申し上げますと、空代雲晴氏は死亡している可能性が高いと思われます。また、空代雲晴氏の失踪に娘・希実氏が関与している疑惑が浮上しました。本メールに添付いたしました画像をご確認ください。



 病室に絶叫が響いた。

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