日記 ⑤
守美はぞくりと体を震わせた。日記の記述によればこの"おさるさま"と呼ばれる存在は、守美について見透かしているようだった。
加えて、"おさるさま"は空代希実の記憶に干渉し、空代雲晴の記憶を一時的に消去したと書いてあった。そのために空代希実は15日の朝には空代雲晴の記憶を有していたにもかかわらず、17日に守美と接触した時は空代雲晴について忘れていたのだと守美は理解した。
(…そうか、憑いていたのか。空代希実に)
守美はそこでサイレンの音を聞いた。秀一が呼んだ救急車が鳴らす音だろう。サイレンの音はアパートのすぐ下に接近し、鳴り止んだ。開け放ったままの玄関ドアの先から、ばん、と救急車のドアを閉じる音が守美の耳に届いた。
守美は土日の分の日記をまだ読めていなかった。その2日分の日記をこれまでのページと同様に写真に収め、日記を元の位置に戻して教科書とノートの山を元通りに片付けた。
救急隊が303号室に到着するよりも数秒早く、守美は空代一子が倒れている玄関に戻った。救急隊が空代一子を搬送する間に、警察官が到着した。鍵のかかっていないアパートの一室の玄関で住民が倒れており、第一発見者は家族ではないという状況だ。119番の担当者が事件性がある可能性を考慮し、警察に通報を入れたのだろう。到着した警察官は守美と秀一に事情聴取を行い、室内の様子を確かめた。守美と秀一が解放されたのは、救急隊の到着から20分ほど後だった。大家が303号室を施錠するのを見届けた後で、守美と秀一はアパートを後にした。
「…それで、何か見つかったのか?姉さん」
アパートから離れ、来た道を歩きながら秀一は問いかけた。その質問を言い終わるよりも前に、秀一のスマートフォンが振動した。守美が送った画像がLINEのメッセージで届いていた。
「なんだこれ…日記?」
秀一は最も後に送られてきた画像をタップし、文字が読みやすいよう拡大した。それは日記のようだった。2ページ分のノートに記されていた日記の日付は、5月18日と5月19日。この土日で書かれたものだ。
5月18日分の日記に目を通し始めた秀一は、その最初の一文で表情を驚愕に染めた。思わず言葉を失い、隣の姉の顔を覗いた。
「私も今読んだところだけど…どうやら調査結果は」
「対象者の死亡ということになるようだね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます