平和的
「さてどうしようね。空代希実が関わっているとわかったのはいいとして、今は何も覚えていないようだ。今の彼女が私たちに危害を加えてくる可能性が低いのはいいが、問題は」
「情報をどう引き出すか…もう雲晴さんについて何も覚えていないんじゃ希実さんの話からは収穫は見込めない。一昨日以降の希実さんの足取りを調べるっていったら…一子さんに話を聞きに行くか」
守美は懐からスキットルを取り出しウイスキーをひと飲みすると、悪戯ぎみに言った。
「よし、それじゃあ現地調査と行こうじゃないか。記憶の怪異は物質的なものは消せない。それなら、空代希実の部屋に何か手がかりがあるかもしれないだろう」
「部屋、見せてくれるか…?」
「もちろん本人がいたら邪魔だから、空代希実が学校に行っている時だよ。月曜に行こう。空代一子は藁にも縋る思いだ。娘の部屋に手がかりがあるかもしれないって言われたら許諾するさ。まあ断られてもゴリ押しすれば問題ない」
「ゴリ押しって一子さんを気絶でもさせるんじゃないだろうな?」
「それじゃあただの犯罪者だろう!私をなんだと思っているんだ!」
冗談めかした秀一の言葉に反論すると、守美はぐいと上を向き、スキットルの中のウイスキーを飲み干した。唇の端を滴るウイスキーの雫をコートの袖で拭きながら、秀一に告げた。
「そんな真似をする必要なんて無いさ」
「私の力は、とても平和的だからね」
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