第84話
「これで、信用してくれますか?」
どうやらセナが殺められる懸念を抱いていると思い、武器を身につけていないことを証明したらしい。
そういった心配をしたわけではないのだけれど、疑ったような仕草を見せて、セナは悪いことをしたと思った。
笑みを浮かべながら、寝台から足を下ろす。
「もちろん、信用しています。それじゃあ……入浴のお手伝いをお願いしますね」
「はい。ぜひ」
掌を差し出されたので、その手に自らの手を重ねた。
熱い。
冷酷そうなアサシンは、驚くほど体の熱が高かった。
「あっ……」
男の熱を感じた体は立ち上がった途端に、花筒の奥からたらりと蜜を零させる。
花筒はラシードが注ぎ込んだ精でいっぱいだ。
ふらりと揺れた肢体を、力強い腕が抱き留める。
「失礼」
軽々と横抱きにされて、隣室の浴場に連れ去られる。
ふたりとも全裸なので、抱き上げられると密着した男の体から熱が伝わる。
セナはぎゅっと両足に力を込めて、蜜が零れないよう祈った。
シャンドラは体を洗うと宣言していたけれど、そんなことをされたら、この痴態も見られてしまうかもしれない。セナを下ろしたら、帰ってもらうように頼まなければ。
広大な浴場は、半屋外になっている石造りの湯船があり、いつでも入浴できるようにお湯が張られている。細やかなタイルで彩られた洗い場には、黄金で造られた椅子が置かれていた。まるでオブジェのような滑らかな曲線を描いた椅子に主人が体を横たえれば、仰臥したまま召使いが体や髪を洗えるのだ。
黄金の椅子にそっとセナの体を下ろしたシャンドラは、黙々と海綿や石鹸の準備を始めた。どうやら本当にセナの体を洗うつもりのようだ。
「あの、シャンドラ……」
「なんでしょう」
「体は洗ってもらわなくてもいいです。自分で洗いますから」
「そういうわけにはいきませんね」
にべもなく平淡に告げられてしまう。
泡立てた海綿を手にしたシャンドラは、セナの足の甲をそっと海綿で撫で上げた。ふわりとした泡の感触が心地好い。
「でも、その、だめなんです。洗ってもらうと困るんです」
「なぜです」
「……ええと」
零れた蜜を見られるのが恥ずかしいから……とは、とても言えない。
顔を赤くしてうろうろと視線を彷徨わせているうちに、シャンドラの手にした海綿は脛から膝頭まで上ってきた。意味ありげに丸い膝頭を、くるくると海綿が回る。そうされると密やかな刺激が這い上ってきて、連日にわたり楔を咥え込んだ媚肉は、ひくんと蠢いた。
セナは身じろぎをするふりをして、感じてしまった甘い悦楽をやり過ごそうとする。
「その……汚れてるので……見られたくないんです」
「気にしないでください。俺は全く気にしません」
「そう言われても……」
断言するシャンドラには一片の迷いもない。
海綿は腿まで上がってきてしまった。
どうしよう。
セナは両手で花芯ごと覆い隠した。膝に力を入れて、股が見えてしまわないようにする。
一切表情を動かさないシャンドラが、ちらりと眉を上げる。
「なぜ、隠すのです」
もしかして、はっきり言わないとわかってもらえないのだろうか。
セナは羞恥を押し殺して、ぼそぼそと伝える。
「あのう……僕の、秘部から、精とか、蜜とかが、滴ってきちゃうんです……。だから、それを見られるのが、たまらなく恥ずかしいので、これ以上は洗わなくて結構です……」
どうにかすべて言い切った。
真っ赤になって俯いているセナを、シャンドラは瞬きもせずに凝視している。
わかってもらえただろうか……?
「そうですか。見てもいいですか?」
「えっ!?」
恥ずかしいから見ないでほしいとお願いしたばかりなのだけれど。
海綿を置いたシャンドラはセナの両膝に手をかけた。割り開こうとしたので、必死に膝を押さえて死守する。
「だめだめ! 見ないでくださいって言ったじゃないですか!」
「そう言われましても、見ないことにはなんとも言えません。どうなっているのか、少しだけでいいので見せてください」
「少しでもだめです……だめぇ……!」
抵抗を続けるセナの両膝が、ほんの少し開いた。
身を屈めたシャンドラは覗き込もうとしたけれど、すぐに姿勢を起こす。
「この体勢が良くないですね。とりあえず、髪から洗いましょう」
「はあ……」
あっさりと引いてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
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