最終話

「水野、」

 なにしてんの、私。

「好きや」

「は?」

「僕、水野のこと好き」

 え、意味わからん。ほんまに意味わからん。こいつ、全然おもんないやん。

「え、そういうことちゃうの?」

「いや、意味わからん。おまえ、そういうやつちゃうやん」

 フジサワが困惑した表情をしている。私のどんな様子を見て、その表情をしたのだろう。

 電車がトンネルに入り、フジサワの後ろ姿だけが向こう側に見えて、トンネルを抜けた。踏切には人が立っていた。いくつかの駅を通過した。それらの駅に人がいたかどうかなんて、もうわからなかった。

 よく知っている駅に着くと、私たちを押しのけるようにしておばさんが降りて行った。雨風が車内に吹き入れ、私は外に出られるかどうか立ちまどう。

「あっ」

 フジサワが私の身体を一瞬で押して、私はホームに崩れ落ちた。私の前髪が、あの子みたいに目元に張り付いて、惨めにびしょびしょになる。

 フジサワが何か言ってる。でも、雨音で聞こえない。

「おまえさ、ふざけんな!」

 私はフジサワの手をつかみ、こちら側へと連れてきた。ちょうど、自動ドアが閉まる。

「水野、僕、わからんのやけど」

「何がやねん」

「これ、たぶん恋やと思うんやけど」

 なんや、こいつ。歯の浮くようなセリフばっか言いよって。おもんな。髪も服もぐしゃぐしゃやし。なぜか私の手はフジサワの手首を掴んだまま震えてる。

「ごめん、絶対告白しやんって言ったけど、無理やった」

 思い出した。こいつ、そんなことゆっとった。

「我慢せぇよ。ノリ悪いねん」

「ごめんやって」

「どうすんの、この空気」

「一緒にかみしめよう」

 え、なんで急にボケ? ツッコミの仕方もわからん。

 今はもう、私も、おもんないやつになってる。

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みてみ、フジサワがまたボケてるんやけど 西村たとえ @nishimura_tatoe

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