近未来におけるマジシャンの憂鬱

『Mr.マジカルのマジックショー』

 そう書かれた看板の下でとあるマジシャンがショーを開催していた。

 軽快なBGMと共に登場した男、Mr.マジカルは挨拶代わりに手にしたシルクハットから数羽のハトを羽ばたかせて見せる。だが会場の反応は冷ややかなものだった。


「ハトを道具扱いなんて、動物虐待だ」

「ハトが可哀想」


 慌てたマジカルは続いてトランプを取り出してお客の一人に差し出した。


「この中から一枚、カードを引いてください」

「あの、アルコールスプレーとか無いですか?人が触った物とか無理なんですけど」

「あっはい、すいません……」


 重さを増す会場の空気に、マジカルは新たなマジックを披露しようと躍起になる。


「ではそこのあなた!千円を貸していただけませんか?無ければ五千円や一万円でも構いません」

「paypayでもいいっスか?」

「えっ?あ、駄目です。……では誰か!紙幣を持っている方!」


 マジカルの呼び掛けに、手を挙げる者は居なかった。


「そうですよね。キャッシュレスの時代ですもんね」


 死ぬほど会場が盛り下がったこの日、Mr.マジカルは引退を決意した。

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