第33.5話 東堂裏話

「東堂、嫌な事聞いてもいい?」


 兵馬は遠慮しがちに尋ねた。最近はすっかり東堂も落ちついてきて、訓練にも精を出している。


「なんだ、兵馬」


「兵馬のお父さんと親友の奥さんが不倫して東堂ができたんだろ」


「おぅ」


「向こうの旦那さん、赤ちゃんの立ち合いとかしてないの?」


 言いたいことはわかる。


「なんでうちの親父が、俺を育ててるんだって聞きたいんだよな」


「うん……」


「俺早産で二ヶ月早く生まれてるんだけど、そのとき、おじさんは仕事で海外に行ってたんだって」


「うん…」


「生まれたけど、死んだことにして、夏場だから早く火葬した、ってことにしたらしい」


「でも、急に東堂のお父さんが赤ちゃん育てだしたら、おかしくない?」


「ちょうど、親父のお姉さんが双子の出産後体調が悪くて、ひとり預かる事になったっていったらしい。双子だから、小さくて、NICUに入ってるって。本当は早産で入ってたんだけどな」


「嘘がいっぱいだね」


「一度の嘘で、ホント、ずっと嘘の連続だぜ」


「嘘をホントにする、ってすごい難しいし、辻褄を合わすのが大変だよねー」


「後、本人が耐えられないらしい。親父から言っちまったみたいだ。墓まで持っていきゃ良かったのに」


「その、奥さんが好きだったんだねーー」


「うーん」


「何、違うの?」


「杉田のおじさん、すぐ離婚したんだよ」


「?」


「親父が奥さんが好きなら、その後再婚するはずだろ。けど、俺母親にあった事ないんだよ」


 兵馬も首を傾げた。


「まさか、そんな事がって思うけどさ、親父もしかしたら、杉田のおじさんが好きだったのかもしれねぇ」


「ええっー!」


「俺自身、男同士なんてありえないって思ってたから、今まで思いもしてなかったんだが、身近で付き合ってる奴らを見ると、そんな遠い世界の話じゃないんだよな」


 たしかに、見た目でわからなければ、そうとは思わないだろ。


「まっ、推測なんだけど。親父、わりと子持ちでも、もててたのに、独身貫いてたし」


 東堂は少し悲しそうな顔をした。


「今となっちゃ、聞くことも出来ねえなー」


 その溜め息は、いろんな感情がないまぜになっているように、兵馬は感じたーー。

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ロクイチ聖女 ー6分の1の確率で聖女になりましたー @nouhimeko

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