第33話 魔法騎士大演習 反省会

「兄上、お疲れ様でございました。いかがでしたか?」

 クリステイルは、にこやかに兄を出迎えた。魔法騎士長達がその後を続く。

「士長達も」

「いやいや。わたし共は楽しんだだけですよ。大変だったのはこやつらで」

 疲れた顔の師団長パボン、大隊長トルイスト、大隊長ファウラが、クリステイルに頭を下げた。


 反省会であるーー。

「楽にして下さい」

「いやはや、歳は取りたくないものです。マリアがいれば出てもらえましたが……」

 パボンは、髭を整えながら話す。

「おまえなら、マリアがいても自分が出ていただろう。だいたい誰の子を産んで産休だ」

 ヤヘルがにやにやする。

「わたしの子ですな。五番目の」

 見た目より若い師団長は、愛妻家であり、子煩悩でもある。

「マリアは産休の方が多い」

 トルイストが不満気に漏らす。

「それは言わないの。女性騎士にとっては憧れなのだから」

 ルッタマイヤが擁護した。

「だから、おまえはパボンに狙われるのだ」


 ガハハっ、とヤヘルが豪快に笑った。


「絶対来ると思ってましたよ。師団長は女性のいるところは攻撃しない」

「よく、わかってるじゃないか」

「だから、ファウラは女性騎士を入れたんだろ?」

「わかります?」

 ファウラがにこにこと返した。

「おまえ程、負けず嫌いはいないからな」

 溜め息をついたトルイスト。

「兄上はどう思われましたか?」

 クリステイルの言葉に、全員が姿勢を正す。

 アレクセイは、少し目を閉じてから、形の良い唇を開いた。

「……存外、騎士達の行儀の良さには驚いたな」

「はい?」

 クリステイルがかわいらしく首を傾げた。


 将軍は皆、あっ、という声を漏らした。


「私なら、魔物が出た時点で、大地震アースクエイクで全軍殲滅だ」

 アレクセイの言葉に、全員が色を無くした。

「ミハナが泣き出しそうな案だがな」

 ジョークだ、とアレクセイは言った。いや、やりそうだ、と将軍達は考えた。

「だが、魔物との戦闘時のみ魔法を許可する、という事を、上手く使った者がいた」

 トルイストが眉根を寄せた。パボンが、はて?、と不思議そうな顔をした。


「戦闘時中に、わからない程度にミハナを回復させていたな。ファウラ」

「はぁ!」

 トルイストが信じられない、という顔でファウラを見た。バレてた、という顔のファウラ。

「そこまでしてあの新人を連れて行く価値があったのか。トードォならまだしも」

「……隊長の実力も隊の実力も同程度なら、拮抗は必至です。そのときに起爆剤になるのが新人ですよ」

「頭でっかちのきさまとは、本当に合わんな」

「お互い様で」

 トルイストとファウラが、クリステイルの御前にも関わらず言い合いをするのを、ルッタマイヤが諌めた。

「どちらもよくやったわ。現にミハナの案は、素人にしか浮かばないもの。ファウラの見通しの勝利です」

「パボン殿のチームよりは、残りが多かった」

 トルイストの矛先が、パボンに向いた。

「本当に、面目ございません」

「いや、よくやった。今回の演習の功労者はパボンだな」

「えっ?」

 そうですか?と、クリステイルは疑問を口にした。

「いやいや、とんでもない。斥候を気付かれたり、良いところ無しですよ」

「お荷物を抱えての移動だ。苦労があっただろう」

「お荷物?」

「王太子殿下、最近の陛下のご様子は?」

 アレクセイが溜め息混じりに、クリステイルに問うた。

「えっ?いつも通り執務をされていましたが」

「認可された書類は?」

「あっ、差し戻しが多いと大臣が……」


 まさか!


 クリステイルの表情に、アンダーソニー達は下を向いた。大隊長の二人は、何の事かと視線を彷徨わせた。

「父上が、パボン殿のところにいたのですか!」

「王太子殿下、申し訳ありませぬ」

 パボンが深く頭を下げた。

「いえ、父上がご迷惑をおかけしてすみません。本当にお荷物でしたね。言う事聞かないでしょうし。海に沈めてきますか?」

 クリステイルは真剣な面持ちで、兄に問うた。

「いや、すぐに出てくる」

 さらに、真面目な顔でアレクセイが言う。

「そうですよね」

「いやいや、陛下が王太子の頃からお供している身としては、大した事はありません」


 ーー昔の方がひどかったのかー。


 王子二人の胸の内。

「果敢にトードォに向かう姿は、他の者にも喝を入れていただきました」

「まわりがひやりとしただけでしょうにーー」

「クリス、そもそもおまえがちゃんと見張っていないからこうなったのだ」


 えっ!アレクセイ殿下が、王太子殿下を我々の前で呼び捨てにーー。トルイストの顎は外れそうになった。

「兄上が、聖女様を頼むとおっしゃるから」

「遊び過ぎだ」

「ひどいお言葉だ」

 クリステイルは笑った。


 アレクセイも、薄く笑う。


「いや、しかし終わってしまって残念だと、皆言ってましたよ」

 ヤヘルが明るく言った。

「これでこそ、演習ですわ」

 ルッタマイヤも頷く。

「そうだな、トードゥにも言われたな」

 あの生命知らずがーー、とヤヘルは笑った。




「次は、亡霊城の掃除をしてもらおうか」

 アレクセイの言葉に、クリステイル以外の者が固まった。

「で、殿下が、攻略に一週間かかった、あの亡霊城でございますか?」


 トルイストが震える声で聞いた。


「そうだ。湧き続けるゴミの掃除だ。魔力がいくらあっても、足りないーー」


 大袈裟ですねー、

「騎士達の手も借りたいぐらい汚いんですね」

 と、クリステイルは呑気に言う。


 下を向いた士長に将軍達ーー。




 東堂と美花の演習での活躍は、兵士中に知れ渡った。


 異世界から来た二人の魔法騎士の伝説は、ここからはじまっていくーー。

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