不思議な手相見の話
長井景維子
一話完結
駅前の賑わいをよそに、路地を一本入った道端には、人通りは少なく、炉端焼きの店が一軒ととんこつラーメンの店が一軒あるだけで、あとは薄汚れたシャッター街。角のパチンコ屋から賑やかな音楽が扉が開くたびに漏れてくる。とんこつラーメン店からお客が一人、爪楊枝をくわえながら暖簾をあげて外に出てきた。もう薄暗くなった駅前まで歩いてゆくと、駅の中にすっと消えてゆく。
野良犬が一匹、角を曲がって路地に入ってきた。リードはないが、首輪をしている。しかし、しばらくシャンプーをしてもらっていない様子で、薄汚れてお腹を空かせていた。とんこつラーメン店の裏口からいい匂いがしてくるとみえて、しきりにクンクンと匂いを嗅いでいる。そのうち、前足で裏口の扉を叩き、ワオーンともの悲しい鳴き声をあげた。
しばらくすると、とんこつラーメン店の店主が犬の鳴き声を聞きつけて、出汁をとった後の豚の大腿骨を洗面器に入れて裏口から出てきた。
「さ、食べな。いい子だな。」
野良犬は嬉しそうに尻尾を振り、店主の顔を見上げた。かわいい顔をしている。柴犬が混じった雑種で、保健所なんかに連れて行くと、薄汚れて最後まで引き取り手が来ないタイプの犬だ。店主はつぶらな瞳をしたその犬の頭を撫でて、
「お前、シャンプーしてもらわなきゃ、臭いな。」
犬は黙って骨にかじりついた。三日ぶりの餌にありついて、シャンプーどころではなかった。店主は犬を見つめながら、首輪に小さなメモ用紙が挟み込んであるのを見つけた。その折りたたんだメモ用紙を首輪から外して、読みながら驚いた。
『優しい、ラーメン屋さん。ありがとう。明日、僕のご主人が来ます。お礼にあることをプレゼントします。えんじ色のベレー帽をかぶった80代のおじいさんです。』
犬は素知らぬ顔でまだ骨にかぶりついていたが、ラーメン店の主人は、不思議そうにメモを読むと、
「この犬、なんなんだ。明日、おじいさんが来るって?骨をやるのはこれで3回目だけど、こんなメモ、気づかなかったな。よし、シャンプーしてやろう。」
犬が骨を食べ終わると、店主はおいでおいでをして、裏口から店の中に犬を入れた。大きなたらいにお湯を張ると、シャンプーの大きなタンクを持って来て、犬を洗ってやった。犬は気持ちよさそうに店主の顔を見上げ、シャンプーをゆすいでもらって体を振って水分を飛ばした。
「お前、可愛くなったぞ。ちゃんとご主人がいるなら、ご主人のところにいなさいよ。探してるかもしれないよ。」
犬はそんな言葉は聞かずに、まっすぐに路地を走って行った。主人はメモを見ながら、プレゼントってなんだろうなあ、と上を向いていたが、お客が暖簾をあげて入って来ると、
「はい、ラッシャイ。」
と、威勢の良い声で答え、注文を聞いた。
明くる日もラーメン店はそこそこの繁盛で、店主は忙しく麺を茹で、スープを作り、チャーシューを乗せて、ラーメンを作り続けていた。知らないうちに夕方になり、お客が少し途絶えた頃、暖簾をそっと開いてえんじのベレー帽をかぶったお年寄りが一人、入って来た。
「へい、ラッシャイ、あ。」
「とんこつラーメンください。餃子も一つ、それから生を小瓶で一本。」
主人は言いかけた言葉を飲み込んで、ラーメンを作り始めた。餃子を焼いている間に冷えたビールの栓を抜き、コップに注いで出した。
「うちのラッキーがお世話になってありがとう。今日はそのお礼を言いに来たんですが、あの犬は僕の犬だけど、放浪癖があってね。」
「ああ、放浪しちゃうんですか。括りつけるのはかわいそうですよね。」
「そうなんだ。あの犬は開運犬、って言ってね。開運が必要な人を探して歩きまわるんですよ。僕は占い師なの。手相見なんだ。」
店主はにわかには信じられない話を聞きながら、黙り込んで麺を茹で始めた。
「手相を見せてくれませんか?」
「え?」
「ラッキーがあなたは開運が必要だと教えてくれたんだよ。」
「はい。嫁さん欲しいけど、なかなかご縁がなくて。お金には困ってないんです、おかげさまで。ここは奥まってるから人通りは少ないけど、ラーメンの味を覚えたお得意さんが来てくれてね。お金は必要なぶんあれば、私は十分なんです。」
「いい心がけです。ラッキーが気に入ったわけだ。あの犬は気に入った人からしか餌を食べませんから。」
「はい、お待ち。麺が伸びないうちに召し上がれ。餃子もすぐに。」
「食べ終わったら、手相をちょっと拝見しましょう。……(麺をすすりながら)うん、うまい。博多とんこつですか?」
「熊本です。私は熊本の出でね。にんにく、お好きですか?チップ乗せてください、よかったら。」
「肥後もっこすですな。」
老人は微笑みながらラーメンを食べ続けた。80代とメモにあったが、そうとは思えない食欲で平らげてゆく。ビールを流し込み、出された餃子を箸でつまみ、口へ放り込む。
「あの、差し支えなければ。あの、ワンちゃんの首輪にあったメモですが。」
「ああ、私が書いたものですよ。あなたから餌をもらったと、ラッキーが言ったんです。あの犬はここだけの話、言葉を話せるんですよ。前世は忠犬ハチ公だったんです、そのご褒美に人間の言葉を話せるようにしてもらった。でも、話せると言っても、私とだけ話せるんですがね。」
「は?」
店主は信じられない、という顔をして、でもこの爺さんは悪い人には見えず、
「杏仁豆腐はいかがですか?サービスします。」
「あ、好きなんですよ。いただきます。かたじけない。」
ラーメンと餃子を平らげ、ビールを飲み干すと、杏仁豆腐を待つ間に老人は言った。
「忙しそうだけど、右手を見せてくださいな。」
「はい。」
老人は胸元から老眼鏡を取り出して、店主の右手を覗き込んだ。しばらく見ていると、
「うん、結婚線が薄いね。でも大丈夫。これがプレゼントなんだが、」
手相見は胸ポケットから古びたボールペンを取り出し、店主の右手の小指の根元に一本横に線を書いた。
「え?手相、書くんですか?」
「このペンで私が書いた線はしばらく経つと本当に手相になるから。そうしたら、店の入り口に募集広告を出しなさい。洗い物から始めてもらって、ラーメンのスープの作り方も教える人を探しなさい。そして、女性が来たら雇いなさい。男性が来たら、断りなさい。雇った女性があなたの嫁さん候補だよ。あなたが好きなら貰いなさい。」
「それじゃ、これでプレゼントは渡したよ。あとはあなた次第だ。ラッキーはもうここへは来ないけど、シャンプーのいい匂いをさせていた。あなたが洗ってやってくださったのだね。本当にありがとう。私もなかなか洗ってやれなかったが、助かりました。いい嫁さんが来るよう、祈っていますよ。あ、杏仁豆腐をいただいて、帰りますね。」
手相見は杏仁豆腐を美味しそうに食べ、腕時計をちらっと見た。
「さて、ご馳走様。そうだ、出汁をとった後の豚の骨、余ってますか。ラッキーにもらって帰りたいのですが。」
「はいはい。いくらでもお持ちください。今、包みます。」
老人が会計をすませようとしたら、主人は会計を断りそうになったが、老人は、
「私は年金生活者ですよ。大丈夫。美味しいラーメンはタダで出してはいけません。」
そう言うと、千円札と百円玉を数枚払って、
「また来たくなる味だな。」と言いながら、暖簾をくぐって外へ出て行った。主人は後をつけてどこに住んでいるのか知りたいなどと言う無粋なことは思わなかった。
「へい、ラッシャイ。」
また次々に客が来始めた。
数日後、店主は風呂に入りながら右手の小指の下のボールペンの線が消えているのを見た。そして、また老人の言った通り、その線が新しく手相になっているのを確認した。
「やっぱり。」
その夜、パソコンで一人募集広告を書いた。年齢制限をかけた。35歳まで。うん、これなら、ずるくはないな。既婚者だったら断ろう。
翌朝、張り紙をすると、右手をもう一度見た。長いはっきりとした結婚線が一本、小指の根元にあった。
「あの爺さんに運命を託してみるか。」
肥後もっこすの主人は、とんこつスープを煮出しながら、ラッキーが喋れると言う話や、開運犬である話、忠犬ハチ公の生まれ変わりだと言う話も、全部信じることにした。そして、これらの話は誰にも言うまいと心に決めたのだった。
その頃、ラッキーは老人の住む、平屋建ての築50年の木造の家に、二日ぶりに帰って来た。お腹が大層減っていた。老人は冷蔵庫から豚の骨を取り出して、ドッグフードと一緒にラッキーに与え、何やら聞こえづらい声でラッキーと話し始めた。
ーラッキー、今度は何処に行っていたんだ?
ーご主人様、女の子がお母さんが病気で泣いてました。
ーそれは、行ってやらなきゃいけないな。
ーはい。優しい女の子です。頭を撫でてくれました。唐揚げを一つくれました。小さなみすぼらしい家に住んでいます。でも、自分の分の唐揚げを僕にくれたんです。
ーわかった。手紙を書こう。
老人は便箋に手紙を書き始めた。
『僕に唐揚げをくれてありがとう。僕のご主人からお礼をしたいので、明日、お昼の12時に公園で待っててください。えんじ色のベレー帽をかぶった80代のおじいさんです。お母さんが病気なんだね。かわいそうに。僕のご主人が変な人と疑われないように言っておくが、明日はお父さんと一緒に来なさい。』
その手紙を封筒に入れ、風呂敷に包むと、ラッキーの首に巻きつけた。ラッキーは骨を噛み砕いて食べ終えると、喜んで走って行った。
ラッキーは女の子の家の前でいつまでも待っていた。ワオーンとまた悲しげな鳴き声で女の子が出て来るのを待った。女の子は、家の中にいた。お母さんは痩せて顔色が悪く、激しく咳をしながら台所で料理をしていた。やがて、お母さんは女の子に
「まり、ちょっとスーパーで洗剤買って来て。三百円、持って行きなさい。」
「はい。」
女の子は宿題をやっていたが、その手を止めて、母から百円玉を3枚もらうと、玄関で靴をはき、出て行った。そこに、ラッキーがおすわりしていた。
「あ、昨日のワンちゃん、また来たのね。よしよし。今日は食べ物あげられないよ。」
「あれ?この風呂敷、何?」
女の子はラッキーの頭を撫でた手で、風呂敷をほどき、手紙を見つけて読み始めた。
「お母さん、ちょっと見て。」
「何?」
お母さんは手紙を読むと、
「明日は日曜日だから、お父さんと一緒にお昼に公園行ってみれば?」
「うん。」
女の子は手紙を大切そうにポケットにしまうと、スーパーへ駆けて行った。
次の日の12時前に、まりとお父さんは公園のベンチに座っていた。12時きっかりにベレー帽をかぶって老人が現れた。
「やあ、君がうちのラッキーに唐揚げをくれた優しい子だね。お父さんもお呼び立てしてすみません。僕は手相見なんです。お嬢さんが僕の犬に餌をくれたので、お礼にプレゼントを差し上げます。」
「はあ。」
「お嬢ちゃん、ちょっとお父さん借ります。お父さん、左手を見せてください。」
「はい。」
「お母さんがご病気ですね。で、今困っていることは、言わなくていいです。手相に出てます。
金銭的に困ってらっしゃるんですね。家庭は幸せな良いご家庭をお持ちだと出ています。」
「はい。」
お父さんはちょっと驚きながら、でも、当たってるなーと思った。
「ここからが僕のプレゼントです。ちょっと待ってね。」
胸ポケットから例の古びたボールペンを取り出すと、左手の中央に大きくMの字を書いた。
「これは、金運が上がる線です。このボールペンで書いた線はしばらくおくと本当の手相になります。手相になったら、一番近い売り場で宝くじを買ってください。そして、そのくじが当たっても、外れても、お金は大切に少しずつ使うと約束してください。今までに借金がありますね。その借金も少しずつ返してください。お嬢さんがお嫁に行くまでは仕事も頑張ると約束してください。」
「はあ。」
お父さんはにわかには信じられない話を聞いて、ぼんやりしていた。女の子がすかさず聞いて来た。
「お金より、お母さんの病気が心配です。手相でよくなりませんか?」
老人は考えた。
「病院でお金がかかります。そのお金は宝くじが当たれば準備できます。お母さんのためにはたくさん使ってあげてください。それから、女の子に言いますが、毎日、神様にお祈りしてください。お母さんがよくなりますように。これを毎日忘れずに続けること。あなたができることはこのことです。」
女の子は頷いた。老人は女の子の頭を撫でながら、
「私も祈っていましょう。それでは。」
「ああ、忘れていた。ラッキーを時々使いに出しますから、何かあったら、手紙をあの風呂敷に包んで持たせてください。」
「はい。おじいさん、ありがとう。」
手相見は仕事帰りに神社によると、女の子のお母さんのために長いこと祈った。家に帰り、ラッキーが待っているのを見ると、嬉しそうに餌をやりながら、
ーラッキー、女の子にあって来たよ。宝くじが当たるといいが。
ーはい。病気も今はお金で治りますから。
ーそういう時代だな。
それから三ヶ月が経った。老人はまたあの熊本ラーメンが食べたくなり、駅前の一つ路地を入ったあの店を訪れた。暖簾を潜ると、
「はい、いらっしゃいませ。」
綺麗な若い女性の声がした。主人は遅れて奥から振り向くと、
「ラッシャイ。あ、いつぞやの。」
老人は目配せをして、「わかってる、黙ってて。」
「チャーシューメン一つと烏龍茶。」
「はい、チャーシュー、ウーロン。」
女の店員を見て、老人は自分の仕事に間違いがなかったことを確かめた。
「旦那、秘密にするこたありませんよ。私たち、もう結婚式も挙げちゃったんですから。」
「そうかい、そりゃいい。おめでとう。早かったねー。」
若女将は赤面して、
「手相を見てくださった方ですね。でも、何か秘密があるとかで、それは言えないって。この人のそういうところが好きです。」
「ああ、多分、私が飼っている雑種の犬のことと私のボールペンだね。いいよ、奥さんなら秘密は守ってくれるだろう。旦那さんから聞きなさい。」
「はい、チャーシューメンお待ち。」
美味しそうに湯気が立つチャーシューメンを若女将が運んで来てくれた。
「私は、この店で張り紙を見ました。ここで働く前は福岡で洋品店に勤めていたんです。私も熊本出身で、熊本ラーメンのお店なので、働きたくなって。そうしたら、雇ってもらえて、色々教わるうちにこの人のことを好きになっていったんです。この人、ラーメン職人としては一流です。こんな美味しい熊本ラーメン、都会で食べられる店はそうありません。」
「本当だ、目が高いよ、奥さん。欲はないし、誠実な人柄だしね。ラーメンの味に滲み出ているね。」
「はい、ありがとうございます。」
老人は久しぶりにいい仕事の結果が出て、嬉しくて仕方なかった。
「こういう日はいいビール飲もう。プレミアムモルツ、ありますか?」
「はい。ほら、あなたも一杯飲んで。私も少しもらおう。」
3人はプレミアムモルツを飲みながら、楽しい会話をしていた。
「今日はお会計しないでください。杏仁豆腐も冷えてますから、どうぞ。」
若女将は冷蔵庫から杏仁豆腐を出すと、老人の前に置き、ニコニコ微笑みながら老人にビールのおかわりを注いだ。
「はい、いらっしゃいませ。」
もう一人お客がやって来て、3人は会話をやめ、老人はラーメンのスープをぐーっと飲み干した。杏仁豆腐を食べ終えると、
「じゃあ、お言葉に甘えて、ご馳走になることにしますよ。また、来るから。その時はお勘定取ってくださいね。元気で。今度はラッキーも連れて来ます。よかったらとんこつのガラを食べさせてやってくださいな。」
「喜んで。是非連れて来てください。」
店主は弾むような笑顔で答えると、浅く頭を下げて会釈した。老人も軽く会釈して暖簾をあげて出て行った。
ラッキーはその後、放浪を続けていたが、開運を必要とする人は街に溢れていて、なかなかに選別が難しそうだった。出会う人出会う人、何かに困っていて、手相で助けられるような人を探して街をうろついていた。しかし、どんなに困っている人でも、原則としてラッキーに優しくしてくれた人にしか老人はプレゼントはやれないのだから、なかなか現れないことも多かった。
老人はラッキーに餌をやりながら、
ーラッキー、あの貧しい女の子のところへ行って来てくれ。手紙をもらえたら、すぐ帰って来なさいよ。
と言った。ラッキーは食べ終えるや否や走って行った。女の子の住む街は隣町だった。女の子の家の前でおすわりして待っていた。やがて女の子がランドセルを背負って学校から帰って来た。
「あ、ワンちゃん、久しぶり。覚えてる?」
ラッキーは首に風呂敷を巻いていた。女の子は風呂敷を解くと、中に手紙が入っていた。
『飼い主の占い師です。お母さんの具合はどうですか。私も祈っていましたが、よくなりましたか。』
女の子は家に入ると、手紙を書き始めた。
『お母さんの病気は病院で検査したところ、結核という病気でした。この病気は今は薬ですぐに治ります。しばらく入院が必要でしたが、お母さんはおかげさまで元気になりました。お父さんは、手相が変わってから、宝くじを買いに行きました。30枚買って、一枚だけ、百万円が当たりました。なん億円も当たるかもしれないと、ギャンブル好きのお父さんは期待していたので、ちょっとがっかりしましたが、すぐにおじいさんの言葉を思い出し、百万円はお母さんの病気の治療に使いました。そして、会社で心を入れ替えて仕事に精を出し、お給料が増えました。大好きだったパチンコもキッパリやめ、今ではすっかり金運が上がりました。手相の通りです、ありがとう、おじいさん。』
お母さんに見せに行き、お母さんも続きを書いた。
『この度は、私たちのことを心配してくださってありがとうございました。私は結核が治り、昔取った杵柄の和裁の仕事を近くで始めました。お客さんにも気に入っていただける仕事ができています。主人も真面目に一生懸命働いてくれています。課長に昇進し、暮らしも楽になりました。ギャンブル癖もなくなりました。娘は元気に優しい子に育っています。私たちは幸せです。』
女の子は風呂敷で手紙を包み、ラッキーの首輪の周りにしっかりと結びつけた。ラッキーは尻尾を振って女の子の手を舐めた。お母さんが冷蔵庫からチーズを取り出して、ラッキーに食べさせてくれた。ラッキーは美味しそうにおやつのチーズを食べると、上目遣いに女の子とお母さんをみて、嬉しそうに首を振りながらおやつのお礼をするようにお母さんの指を舐めて、尻尾を振りながら振り向くと、走って帰って行った。おじいさんの元へ。一目散に。
おじいさんは手紙を読みながら、
「よし、やっぱり宝くじは百万くらい当たるのが一番いいな。億も当たっちゃうと、人生狂うからな。一番いい。一番いい。」
と、ご満悦だった。その夜は満月で、ラッキーの遠吠えが辺りに響き渡った。
ーラッキー、お前にもお嫁さんが欲しいか。そうか、今度連れて来なさい。子犬も欲しいしな。
ーそんな、僕はおじいさんさえいれば寂しくないんです。いつまでも長生きしてくださいね。
ーははは、大丈夫だ。この生命線を見よ。
老人は昔自らボールペンで書いて長くした生命線を見て、
ー120歳は生きるよ。笑。お前の結婚運をよくしてやりたいが、肉球は専門外だからな。
ラッキーはむせるようにワンワンと吠え、尻尾を激しく振っていた。中秋の名月が微笑むように明るく光っていた。
それから何ヶ月かが経ち、ある小春日和の午後だった。老人とラッキーは連れ立って散歩に出た。商店街を通り抜けて、角の郵便局を右に曲がり、まっすぐに歩いてゆくと、しばらくして子宝神社が見えてくる。鳥居をくぐって老人はラッキーを境内で運動させてやろうと思い、リードを外してやった。
ラッキーはリードを外してもらって喜んで境内を走り回った。老人は境内に備え付けられたベンチに腰掛けると、ラッキーの様子を微笑みながらみていた。ラッキーは大きな銀杏の木に用を足した。御神木だが、ラッキーにはそのことはよくわかっていなかった。老人は、ちょっと困った顔をしたが、ラッキーを呼ぶと、ラッキーは走って来た。
ーラッキー、その銀杏の木は神様の神聖な木だから、おしっこをしてはいけないんだよ。土を被せて来なさい。
と教えた。ラッキーはすぐにいうことを聞いた。
ーご主人様、ごめんなさい。その代わり、開運の必要な人を探します。
老人はベンチに座って走り去るラッキーを見ていた。ラッキーは神社の本殿にゆくと、そこで長い間拝んでいる、若い女の人を見つけた。ラッキーは女の人の右横におすわりしてお祈りが終わるのを待っていた。5分経っても、10分たってもお祈りは続いていた。よっぽど叶えたい思いが強いのだろう。20分経っただろうか、女の人は顔をあげて目を開いてラッキーを見つけて、驚いたが、すぐに微笑んでラッキーの頭を撫でてくれた。
ラッキーはその女性の顔を人懐っこい顔で覗き込んだ。女性は笑った。
「ワンちゃん、私の願いが叶うといいな。私は赤ちゃんが授からないの。」
ラッキーは黙ってワンワンと吠えた。女性のいう言葉も理解できるラッキーだった。女性は子宝のお守りを買おうと巫女さんにお金を払っていた。ラッキーは急いで老人の元へ走っていき、老人にこう言った。
ー開運の必要な人を見つけました。赤ちゃんが欲しくてもなかなか授からない女の人です。あそこの本殿の隣でお守りを買っています。
ーどれどれ、ラッキーには優しかったかね?
ーはい。頭を撫でてくれました。
老人はベンチから腰をあげると、早歩きでその女性のそばまで歩いて行った。ラッキーにリードをつけてラッキーも連れて行った。
「こんにちは。初めまして。私はこの犬の飼い主です。怪しいものではありません。と言っても手相見なんです。占い師です。この犬は開運犬といって、開運が必要な人を探すのが仕事です。人間の言葉が喋れるんですよ、私とだけ。そしてこの犬はあなたの話す言葉は理解できます。」
女性はあっけにとられて口を開けてしばらく老人とラッキーをかわるがわる見つめていた。
「赤ちゃんが欲しいんですね。だからこの子宝神社にお参りにきたんですね。随分長い時間祈っていましたね。お気持ち、察します。」
「あ、どうしましょう。私、神様にお願いしていただけです。」
「手相を見せてください。お代は要りません。私はこの通り隠居の身です。」
「はい。」
「ああ、子宝線がない。お子さんはまず一人でいいですね。」
「はい。もう主人と結婚してから8年なんです。一人授かれば、大切に育てます。」
「じゃ、プレゼントしよう。魔法だよ。」
というと、ポケットから古ぼけたボールペンを取り出した。
「これは私の商売道具でね。もう65年も使ってるんですよ。」
老人はボールペンで女性の左手の真ん中あたりに小さな線を一本書いた。
「このボールペンの線はしばらく経つと本当の手相の線になるから、ボールペンのインクが落ちたら確認してくださいね。それから、うーん、あなたは神仏のご加護を受けるありがたい印があります。この手相がある人が神社で祈るとご利益をいただけます。」
「まあ、そうですか。ありがとうございます。ボールペンのインクが取れたら手相になっているって、魔法ですね。おじいさん魔法使いですか。」
「まあ、そんなとこかな。」
老人は照れて、ベレー帽の上から頭を掻いた。
「そうそう、爪に星を入れてあげよう。そうすれば盤石だ。」
老人は彼女の人差し指の爪にボールペンで丸い印を書いた。
「この印もインクが消えたら、爪の中の白い星になります。これは欲しいものが一つ手に入るおまじないだよ。爪が伸びきって星が指から上にはみ出したら、爪切りで切っていいですよ。それまでにいい知らせが届くはずです。この場合は赤ちゃんです。」
女性は驚いていたが、
「毎日この神社に来て祈ります。」
と言いながら、嬉しそうに手のひらと爪の星をかわるがわる見た。
老人は持っていたペットボトルの水をラッキーに飲ませた。
ーラッキー、しばらく彼女に注目だ。時々この神社にくるから、その時に様子を見てくれ。
女性はボールペンのインクが取れて、子宝線の手相が出来ているのと、爪の中に白い星が出来てるのを確認した。
「あのおじいさん、やっぱり魔法使いだったんだわ。信じてみよう。子宝神社に今日もお参りに行こう。」
ラッキーも毎日神社に出かけて女性がくるか待っていた。女性はいつしか、神社の境内でラッキーにおやつをくれるようになった。
「ワンちゃんのおかげだもの。ワンちゃんがおじいさんを連れて来てくれたのよね。ありがとう。さ、食べて。」
ささみのジャーキーをもらってラッキーは幸せだった。
「ワンちゃんは私の話す言葉がわかるのよね。私、あした、お医者さんに行ってくるわ。爪の星はまだあるのよ。伸びきる前に赤ちゃんが来てくれるといいんだけど。」
「ワオーン」
ラッキーは女性の指を舐めた。女性はラッキーの頭を優しく撫でて、
「ほら、見てごらん。子宝線がちゃんと手相になってるでしょう。爪の白い星も。」
ラッキーは尻尾を振ると、おじいさんの元へ帰って行った。ラッキーは老人の平家の家に帰って来た。
ーご主人様、今日もあの女の人におやつをもらいました。そうしたら、明日、お医者さんに見てもらうそうです。
ーそうか。手相も星ももう出来ているだろうね。
ー出来ていました。僕は明後日また神社に行って女の人を待つことにします。
ーそうしてくれ。
ラッキーは水の入ったボウルに顔を突っ込んで水を飲み、毛づくろいを始めた。
その夜は老人は熊本ラーメンを食べに行った。ラッキーも連れて行った。暖簾をくぐると、威勢の良い声が聞こえた。
「へい、らっしゃい。」
「ああ。ご老人、ラッキーも。よくおいでで。」
「あれ、若女将は?」
「ええ。実は子供ができて。今、4ヶ月です。少しつわりがあるので。ラーメンの匂いでちょっと。しばらく失礼させていただいてます。」
「ええ!おめでとう。それはそれは。何かお祝いしなきゃなあ。」
「いえいえ。お気持ちだけで。それより、名付けの親になってもらえませんか?良い画数とかご存知でしょうから。」
「ああ、一応易者だからな。候補をいくつか見せてくださいよ。その中からいいものを選ぼうか。」
「そうですね。初めての子だから。でも、まだ男か女かわからないんですよ。気が早いですよね。あ、今日は何しましょうか。ラーメンですか?」
「とんこつラーメン一つ。それから生ビール。それからラッキーに出汁殻の豚骨をいただけますか?悪いね。この犬はここの骨が大好きなんだよ。」
「はい。お待ちになってください。」
「実はね、なんか今私も願かけてることがあるんだけど。ある人が子宝が授からなくて、開運したんだけどね。明日あたり病院に行くらしい。赤ちゃんが授かるといいんだが。思いがけず、あんたのところに赤ちゃんができてたから、このニュースにあやかってあっちの夫婦にもおめでたがあるといいね。」
「ああ、そうですか。そりゃ、授かれば嬉しいですね。ご老人、色々ご活躍ですね。」
ラッキーは先に骨をもらって、大喜びで食べ始めていた。とんこつラーメンも出来て、冷えた生ビールの栓を抜いて、コップに注いでもらうと、老人は美味しそうにビールを飲み始めた。
「実はね。ラッキーは僕にしか喋れないけど、ほかの人の話すことも理解できるんだよ。だから、この会話もすべてわかってるんだ。」
「へえ。また、不思議な犬ですねえ。どういうご縁でおじいさんのところにやって来たんですか?」
「話せば長いんだよ。ハチ公の生まれ変わりだと言っただろう。こういう不思議な犬は実は日本に五、六頭いるんだ。専門のブリーダーがいてね。名犬ラッシーとか、ベンジーとか、あらゆる有名な犬のDNAを保存してある。この犬はハチ公のクローンと血統書付きの柴犬を掛け合わせたものだ。値段を言ったら目玉が飛び出るよ。住宅ローンを組むつもりで買った犬だよ。十分、働いてくれているけれどね。この犬の子孫を残さなきゃ、いけないね。」
「それだったら、普通のメスの柴犬でいいんですか?いい犬を知ってますが。血統書付きです。」
「そうか。掛け合わせたいな。どこにいる?」
ラッキーはピクッと耳をそばだてて聞いていた。
「私のお客さんの家に可愛い顔のメスの芝がいますよ。確か若かったな。3歳半だったかな。」
「それはちょうどいい。ラッキーは選り好みするかもしれないけれど、あわせてみよう。」
ラーメンはいつも通り、美味しかった。老人はいい情報をもらっていい気分だった。ラッキーもお腹がいっぱいになり、例の芝のメスはどんな犬だろうかと、気が気じゃなかった。
「ここに連絡先を書いておくよ。電話番号。私は携帯は持たないからね。家にいる頃を狙ってかけてください。」
老人はそう言うと、小さなメモを渡した。
「はい。先方にも話しておきます。ラッキーは雑種だから、子犬は全部おじいさんが引き取ると言う約束で。少し手付けとして幾らかお金がいるかと思います。ラッキーが不思議な犬だと、先方に話してもいいですか?」
「そうだなあ。いや、やめておこう。どうしても子孫が欲しいからと言ってください。雑種だから不思議に思うだろうね。お金はちゃんと払います。」
「じゃあ、連絡しますよ。待っててください。」
「どこもここもベビーラッシュだな。笑。」
「本当にね。笑。」
「じゃあ、若女将によろしくお伝えください。大事にしてあげてくださいよ。」
「へい。」
老人はラーメンのスープを飲み干すと、会計を済ませて、帰って行った。ラッキーも老人に続いて店から出て行った。
次の日は雨だった。ラッキーは子宝神社へは行かず、犬小屋で丸くなって寝ていた。少し疲れが溜まっていた。ラッキーは実はもう40年も生きている。普通の犬の寿命はとっくに尽きているのだが、不思議なことに老人に会って、犬の生命線を長くしてもらった。犬の生命線というのは、老人によると、鼻の上につむじがあるかどうかで決まるらしい。ラッキーの寿命は80年はあるらしい。
今まで老人と一緒に開運犬の仕事をして来た。老人は随分ラッキーの働きでお金を儲けた時期もあった。しかし、ラッキーをブリーダーから買うローンの支払いにほとんど使ってしまった。老人はラッキーのローンを払い終えると、細々と暮らして、今は年金暮らしなので、もっぱら人助はボランティアで行っている。
ラッキーは伴侶を持たなかったし、老人も結婚する余裕がなかった。老人は自分が独り身なのは仕方がないと諦めていた。その代わり、周りの人々を縁結びすることで幸せを感じることができるのだった。孤独な老人と孤独なラッキーは今までいつだって仲良く暮らして来た。お互い、いい相棒だった。しかし、忠犬ハチ公のDNAを受け継ぐ高貴な犬として、子孫を残した方が良いと老人はかねてから思っていた。
老人は雨の降る中、平屋の居間で新聞を読んでいた。そこへ電話が鳴った。
「はい。」
「あ、ご老人。熊本ラーメンの私です。」
「はいはい。どうしました?」
「このあいだのラッキーのお見合いですが、先方、いい感触でした。今日、この後すぐに犬を連れてうちの店へ来るのです。ご老人、雨の中で恐縮ですが、ラッキーと一緒にいらっしゃいませんか?」
「ありがとう。ラッキーも今、小屋で寝ています。連れて行きましょう。今出ます。」
「はい。お待ちしています。お昼はうちで召し上がってください。」
「ああ、いいですね。お言葉に甘えようかな。」
「はいはい。待ってます。では。」
電話は切れた。老人とラッキーはラーメン店へ雨の中向かった。店に着くと、先方のメスの柴犬は飼い主と一緒にもう来て待っていた。雌犬はラッキーを見るや否や尻尾を振った。ラッキーもまんざらではなさそうだ。犬を繋いでいるリードをほどいてやると、二匹はすぐに鼻と鼻をくっつけてお互いの匂いを嗅ぎ始めた。
「いい感じだな。」
老人はつぶやいた。先方に老人は挨拶した。先方も自己紹介して、ラーメン店の店主がなかを取り持って二人はにこやかに挨拶し合った。
「うちの犬はラッキーと言います。お宅様の子は名前はなんですか?」
「花子です。ラッキー君を気に入ったようですよ。」
「それでは、子犬が産まれたら、私が買い取るということでいいですか?」
「ミックスですが、私も一頭は欲しいです。できればオスが欲しい。」
「わかりました。オスの一番いいのを選んでもらって、残りは私が買い取りますね。」
「この際、お値段はないことにしませんか?」
ラーメン店の店主は、それを聞いて微笑みながら、
「それが一番いいです。ありがとう。」
と言った。老人は、
「実はさかのぼると忠犬ハチ公に行き当たるんです、このラッキーは。こんな雑種ですけど。」
「まあ。本当ですか。」
ラーメン店の店主が我慢できなくなって言った。
「ラッキーは開運犬と言って、開運が必要な人を探す能力があるんですよ。人の言葉もわかります。賢いんです。だから、子犬たちも賢い子ができますよ。」
老人は臙脂色のベレー帽を被った頭を掻きながら、
「はい、本当です。」
と言った。人間たちがこんな会話をしている時、ラッキーと花子はカップルになった。そして、何ヶ月かして花子から子犬が五匹産まれた。二匹はメスだった。花子の飼い主はオスを一匹選んで、残りの四匹を老人が引き取ろうとすると、ラーメン店の店主と若女将が、オスを一匹欲しいと言って来た。そこで、残りのメス二匹とオス一匹を老人が引き取った。
そうそう、あの、子宝神社の女の人も赤ちゃんが授かっていた。もう、大きなお腹を抱えて、ラッキーを連れて子宝神社行った老人に挨拶に来た。隣には背の高い男の人がいた。女の人の夫だった。二人は老人に揃って頭を下げた。
子宝神社から老人は子犬を三匹とラッキーを連れて、亀の子公園に行った。あの、まりという女の子が気になっていた。元気にしているだろうか。
ーラッキー、まりちゃんを呼んで来てくれるかい?
ーはい。
ラッキーは女の子の家へ走って行った。女の子は学校から帰って来たばかりだった。ラッキーを見つけると、微笑んで頭を撫でに家から出て来た。ラッキーは女の子を誘うように前を走り出した。女の子は後を付いて来る。亀の子公園までラッキーは女の子を連れて来た。
「あ。おじいさん。」
「ああ、まりちゃん。元気にしてるかね?」
「あ、子犬がたくさん。なんて可愛いの。」
「欲しいかい?君なら大切にしてくれるだろうね。このラッキーの子犬なんだ。」
「お母さんとお父さんに聞いてみなきゃわからないけど、一匹欲しいなあ。」
「じゃあ、今から一緒に行こう。お母さんはいるだろう?」
「はい。」
老人と女の子は子犬を連れて女の子の家に行った。もちろん、ラッキーもついて来た。
「オスとメス、どっちがいいかな?」
「メスがいいです。」
老人はメスの子犬を女の子に抱かせると、玄関のブザーを鳴らした。お母さんが出て来た。
女の子は犬を見せながら言った。
「お母さん。子犬を飼いたいの。ちゃんと責任持って世話するから。お願い。」
お母さんは驚いていたが、ラッキーの子犬だと老人から聞いて、
「このワンちゃんの子なのね、じゃあ、飼いましょう。」
と言った。女の子は喜んだ。老人も、
「ありがとう。賢いいい犬のはずですよ。このラッキーは先祖が忠犬ハチ公なんです。その血を引く犬だからね。」
「まあ、そうですか。ハチに子供がいたとは知らなかったわ。」
と驚いた。老人はちょっと気まずそうに、
「ははは。」と笑った。
老人はメス一匹、オス一匹の子犬を抱きしめ、ラッキーと一緒に家に帰った。三匹ならなんとか一人で面倒が見れそうだった。女の子も、ラーメン店の店主も、花子の飼い主も、みんな子犬を可愛がってくれそうだった。ラッキーもホッと胸をなでおろしているようだった。
そして、それからまたしばらく経った。ある日、電話が鳴った。老人は台所で料理をしていたが、電話に出た。
「産まれましたー!」
「はい?」
「あ、すみません、つい興奮して。熊本ラーメンですが、元気な女の子が昨日生まれました。」
「そうですか!」
「早速、名前をつけてやってください。」
「ははは。このところの赤ちゃんラッシュで、すっかりおめでたいことに慣れてしまっていました。おたくの赤ちゃんが生まれたら、名前をつけるんでしたね。候補は?」
「はい。考えました。画数の良いのを選んでやってください。」
「じゃあ、とりあえず、病院に顔見に行きます。」
「はいはい。来てください。」
ラーメン店主はすっかり舞い上がっている。ラッキーも五匹の父になり、子宝神社で知り合った女の人もいまは大きなお腹を抱えて、もうじき元気な子が生まれるだろう。赤ちゃんが生まれるって、いつでも幸せなことだ。
まりは、メスの子犬に『リリー』という名前をつけた。どうもこのリリーは人間の言葉がわかるようだ。まりが話しかけると、一生懸命に話を聞き、すぐにいうことを聞く。どうも、この子犬はラッキーに似たようだ。開運犬として活躍できるかもしれない。まりは、おじいさんに会いに行きたいと思った。亀の子公園に子犬を連れて行けば、会えるんじゃないか?と思った。
案の定、ラッキーと子犬二匹と老人が来ていた。
「おじいさん、この子犬、リリーが言葉がわかるみたいなんです。ラッキーみたいになれるんじゃないかしら。開運犬?」
「そうか!でかした。」
「それで、私に手相占いを教えてくださいませんか?私、勉強しておじいさんの後を継げたらいいと、考えています。」
「おお。それは嬉しい。私は天涯孤独で、後継は望んでいなかったが。嬉しいよ。喜んで教えよう。」
ラッキーは二人の話を聞いていた。興奮して、駆けずり回って転げ回って喜んだ。手相見にとって、生涯忘れられない、幸福な日となった。
不思議な手相見の話 長井景維子 @sikibu60
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