4.ダンジョンは魔物の宝庫
––––見習い魔物解体師は本当の魔物を知らない。
見習いは知識としては知っているが、実際に生きているところを見たことがほとんどない。何故なら彼等に降りてくる魔物は基本的に物がいいことはない。少し痛んでいたり、毒が回っていたり、狩り方が下手で所々潰れていたりということが多い。
生きてるような鮮度の良い魔物などまず見ることはなく、見習いは先人が残した解体知識と見聞でしか生きた魔物を想像するしかないのだ。
そして、シドもそうだった。一人でダンジョンに入ったことはあっても、言ったことがあるのは一階層まで。今、シドがいるのは五階層。
だから、シドはダンジョンに来ると我を忘れてはしゃいでいた。
「うおぉぉぉぉ、ナイトスカルっ‼ これが噂のカランコロン走行っ‼ うわっ、あっちにいるのはブルーアントにゴブリンっ‼」
「ちょっと、黙ってくれよっ!? うっさいわっ‼」
「あ、後ろのブルーアントの蟻酸に気を付けたほうがいいよ」
「は? うおっ、あっぶねっ!? この蟻んこっ。オラアァァァァ」
カインは背後にいるブルーアントから放たれた攻撃を大げさに回避し、得物である大剣を振り下ろした。自身の身長よりも一回りは大きく幅のある大剣が魔物の身体を容赦なく引き裂き、複数の攻撃をもってその命を刈り取った。
そのせいもありブルーアントの死骸はボコボコにされており、脚がちぎれていたり折れていたり、尻は潰されて中から酸が漏れ出している。
斬殺というよりは撲殺に近い死に方を遂げていた。
「……」
「ふうっ。はははっ、どうだっ‼ 言っただろ、俺がいればこんな上層の魔物なんか余裕だっ――」
「――君、ふざけてるの?」
「は?」
シドはブルーアントの見るに堪えない死骸を前にわなわなと震えだし、隠すことなく怒りをあらわにする。
理不尽な怒りだということはシドもわかっていた。しかし、怒らずにはいられなかった。
シドの知っている冒険者の戦闘は大体下層や中層のランクの高い者達ばかりだったからか、新人冒険者の魔物の戦闘を見るのは初めてだった。魔解ギルドにやってくる質の悪い魔物の発生理由を知って、指摘せずにはいられない。
困惑を見せたカインを冷静に手招きする。シドは可哀そうな死骸となってしまったブルーアントに向けて、自前のナイフを手にして解体をその場で始めた。
「君はブルーアントの弱点を知ってる?」
「身体じゃねぇのか? ほらめっちゃ細いとこ」
ブルーアントの構造は大きく、頭部と身体と尻の三つに分かれている。
しかし、身体と尻を繋ぐ、人間でいう腰の部分が折れそうなほど細い。大きな身体と尻が大きくて硬い殻で覆われていることから、その部分が弱点に見えてしまう。
しかし、シドはそんなゼロ点の回答に小さく首を振る。
ナイフを高く掲げて、その刃先を勢いよくカインの言う弱点に突き刺した。だが、その刃は固い殻にたやすくはじかれて、甲高い音を鳴らした。
「えっ!?」
「ブルーアントの一番固いところは君のいう、この場所なんだ。逆にこの死骸から分かる弱点がある。不自然なほど顔に傷がないと思わない?」
「おぉ、ほんとだ。あんなに叩きのめしたのに、顔に当たってなかったのか?」
「そう。顔は身体っていう固い盾を使ってでも守りたかったんだ。じゃあ、なんで守っていたのか……それは――」
今度はナイフをブルーアントの顔面に向けて、軽く振り下ろした。
すると、殻の部分で少しの抵抗はあるものの、力を入れるとすんなりと刃が入っていった。
「知らなった……顔が弱点なのか」
「別に顔だけじゃないよ。腹は殻の隙間があるし、ブルーアントは酸を尻から出すときに身体の構造的に動くことが出来ないとか。探せばいくらでもある。まぁ、これらの弱点はそれこそ冒険者の力量によって変わってくるけど」
話ながらナイフを動かして、シドはブルーアントの解体を続ける。ブルーアントの殻は外からの攻撃には強いが内側からは弱い。剥がし終えたキラーアントの潰れた尻の中を見てみるが、そこには酸は残っていなかった。
攻撃で放出し、潰れて流れ出てきていることもあり、期待はしていなかったがシドは小さくため息を吐いた。
ブルーアントの酸は強力でいろんなものに使えて、価値がある。しかし、酸を手に入れるにはそれなりに技術が必要で難しい。こればかりは、しょうがない。
手に入れたブルーアントの殻を背中に背負った大き目なバックに入れ、シドは次に死骸となったゴブリンのもとに歩き出そうとする。
「……って、おいっ‼ シドっ、一つ一つ解体してる暇ないって、早くあいつらのとこ行かないとっ」
「うっ……で、でもせっかくの宝がっ」
「そんなもんっ、宝でもなんでもねぇよっ。早くいくぞっ」
「あ、あああぁあぁぁっ‼」
今生の別れを惜しむかのように魔物の死骸から離れようとしないシドだったが、カインによって無理やり引きはがされる。大剣を振り回せる力はシドに牙をむき、カインに引きずられるままダンジョンを進むことになるのだった。
だがこの時、シドもカインも気づいていなかった。
ブルーアントはとても第五層に現れるような魔物ではない。本来のブルーアントの生息階層は八層付近であるということに。
あとがき
読んでくださり、ありがとうございます。
感想、評価よろしくお願いします。
テンプレって物語に必要だよねっ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます