第一章
第1話
頼りない街灯の光が静かな住宅街の所々に並んでいるのを不気味だと感じる。今日は特に遅い時間だからだろう、自分の足音しか聞こえない道はどこか現実味がない。
部活帰りということもあって俺は疲れていたから、背後からしのび寄る足音に気づかなかったんだ。
体に衝撃を感じた頃にはもう手遅れで、腹部に激痛を感じながら体が倒れる。腹部から血が流れていくのが分かって、朦朧とする意識の中で人影が走って行くのが見えた。
そうして、
*
目が覚めると、俺はふかふかな革ソファに座っていて、前にはアンティーク調の書斎机がある。それを見て、なんとなくファンタジーものに出てくるような執務室みたいだなと思う。
俺はついさっきまで帰路についていたはずだ。そこで、腹を刺されて死んだところまでは覚えている。実は死んでいなかったのか……?
色々考えていると、後ろにある部屋の扉が開き、派手な美女が現れた。俺が見惚れている間に美女は書斎机の椅子に腰掛け、こちらを見る。
「初めまして、三森晴樹。わたくしは生命を司る女神だ。どうぞお見知り置きを」
……今、女神と言ったか? 生命を、司る、女神?
「楽にするがいい、わたくしはそなたに伝えたいことがあって呼んだ。何かあれば遠慮なく質問してくれ」
「じゃあ……貴女は、女神なんですか? ここはどこですか? 天国?」
「先ほども言ったであろう、わたくしは生命を司る女神だ。ここは天国ではない。簡単に言えば、生か死かの選択をする場である」
生か、死か? ここは天国じゃないのか。よく分からないことばかりだ。
「今、そなたには選択をしてもらう。生を選べば新たな人生を送ることになり、死を選べば天国で働くことになる」
生を選べば転生して、死を選べば天国に行くってことか。
「生を選んだ場合は異世界に転生するんですか?」
「そうだな、そなたがいた世界とは全く違う世界だ。生を選ぶのか?」
そうだな……面白そうだし、転生してみたい。それに、異世界転生ものは好きだしな。
「じゃあ、俺は生を選びます」
美女、もとい女神はなぜか呆れたようにため息をつく。
「そんな軽く決めることではないんだぞ、これは。……まぁいい、生を選ぶのだな? ではそのように手配しよう」
女神が流れるような動作で手を上げると、どこからともなく天使が現れて俺の前に立つ。
「それでは、三森晴樹には転生していただきます。転生の準備をいたしましょう」
天使は俺の顔に手をかざすと、だんだんと眠くなってくる。いよいよ意識を手放すとき、不穏な会話が聞こえてきた。
「女神様? 今から記憶を消すので手を離していただけると……」
「こちらの不手際だからな、せめて記憶はそのままにしておけ。三森晴樹、こいつはまだ死ぬ運命ではなかった。なのになぜ……」
はぁ? じゃあ俺はまだ死ぬ運命じゃなかったのかよ、そんなの聞いてないぞ──。
転生勇者の紀行〜仕方ないので魔王討伐を目指します〜 紅茶 @tea_write
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