日『星降る夜』

——とある星降る夜。


 藍本オリジナルの地球では、一番最初に乳白色の扉をくぐってきた男児が、二〇歳を迎えていた。成長した彼は、草原に寝転んで夜風に当たりながら、何かを期待して、夜空を眺めていた。


 そして、はやってきた。


 黒いキャンバスに、白い筋が走る。一つのきらめきの粒が、彼を目掛けて、流星のように、降ってくるのだ。大球場の、真っ白なホームランボール。それを、彼は、指先で、見事に掴み取った。


 白き光を放つ、立方体。


 煉瓦的微小立方体れんがてきびしょうりっぽうたい


 またの名を、ナノキューブリック。


 彼がそのような仰々ぎょうぎょうしい名称なぞ知るはずもないが、一つ確かに言えるのは、その四角い粒が、彼の清らかな瞳に魅力的に映った、ということだ。


 彼は、それをそっと摘んでいたのだが……


 やはり、粉々に潰れてしまった。


 光る白いが、指先から、こぼれゆく。草の緑に乗る粉は、繊細な粉雪の集積に劣らず、美しい。白い粉の全てが、彼の指先を離れてしまい、砂漏すなどけいの如く、彼の出立しゅったつの時を告げる。粉の広がりは、ブクブクと、音を立て始める。そして泡のように膨らんでいき、煉瓦のように積み上がり、やがて、乳白色の扉の一枚へと、姿を変えた。


 彼の目の前にそびえ立つ、扉。


 男児ボーイ男性ジェントルマンとなり、自分だけの地球を持つ日を迎えた。


 彼は取手ドアノブに手をかけ、扉を自分の体の方に引き寄せる。


 歩みを始める。


 生まれてこの方嗅いだことのない香りのする、新世界へと、吸い込まれていく。





 一人ぼっちの、新たな世界。


 彼はそこで、幸せを掴むのだろうか。


 神にさえも、それはわからない。


〈完〉

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新世界 加賀倉 創作 @sousakukagakura

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