土『子供の国』

——緑の草原。


 ある時、まだまだ幼い男児の目の前に、乳白色の扉が現れた。


 扉が開く。


 すると不思議なことに、また別の赤子の入ったかごが、扉の中ほどの高さで、ふわり浮いている。


 籠は、こちら側に、そっと、着地した。


 扉はひとりでに閉まると、たちまち消えた。


 男児に、お友達ができた。


 お友達は、女の子だった。


 そしてさらに女児に続き、扉が次々と出現し、赤子が一人、また一人と、されていく。

 

 お友達の数は、十、百、千、万、と、みるみるうちに増えていった。



——子供の国の誕生。



 子供たちはやがて、元気いっぱいに走り回り、しっかりとした文章の言葉が飛び交うようになった。


 走りは自力で習得できるが、言葉は……誰から教わったのか?


 子供たちの言葉の習得方法は、風変わりだった。


 どこからともなく聞こえてくる声。


 これを、当てにしたのだった。


 当初は、子守唄や、簡単な言語だけが聞こえてきたが、子供たちが成長するにつれて、次第に難しい内容のものが、聞こえてくるようになった。


 詩、歌、お経、説教、演説、学問の講義、議論、罵り合いなど、声の種類は、様々だった。


 声の庇護下ひごかで、はしゃぎ回る子供たち。


 山や、川や、海、時には、いつの間にか立ち並び、によって運営される娯楽施設に、遊びに行った。


 一見すると無法地帯だが、子供たちがどんな僻地へきちへ行っても、何ら問題はなかった。


 小腹が空けば、やはりどこからともなく、おやつがポンっと現れ、喉が乾けば、真水でもジュースでも色んな飲み物が、空から、それを望んだ子供の頭上だけに、雨のように降り注いだ。


 怪我をして動けなくなっても、茂みから突然医者が現れ手当し、遊び疲れて足が棒のようになったのなら、迎えのバスが駆けつけた。


 誰一人として暮らしに不自由することが一切起こらぬまま、藍本オリジナルの地球は、乳幼児から青年まで、様々な年齢の子供たちで溢れかえった。

 

〈日『星降る夜』に続く〉

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