第一章




 時間がかかりそうなので、天幕を張り、その中でユージーンとリルるんが話していた。念のため、ユージーンの護衛も居る。


 リルるんの武器――変わった槍だった。特注品だろう。――は、森の中で回収した。


「あの女から離れたいんだよ! でも親父とお袋が人質に取られてて……」

「確認する。あの女とは、リーリアント第四皇女殿下で間違いないか?」


 予想外の展開に頭を整理しながらユージーンが問うと、リルるんは涙目で頷いた。


「リーリアント殿下は幸せな結婚をなさったと聞いているが?」

「幸せなのはあの女だけだぁ!!」


 全力で叫び、リルるんはまた涙顔に戻り、


「あの女、俺の何が気に入ったか知らねぇが、勝手に結婚することにされて……人質も取られて……逆らったら俺は首ちょんばだ……」

「首ちょんば?」

「ちょび髭親父……あ、皇帝だ、あいつが、事あるごとに首ちょんば首ちょんばって……」

 要するに、首を刎ねるということか。


「リーリアント殿下が貴方を大事に思っているなら、首は飛ばないのでは?」

「あの女は、俺を剝製にして傍に置くかもしれねぇ!」


 心底恐ろしいというように身震いするリルるんに、演技の様子は見られない。


「それにな、俺は……あの女の『副葬品』になってんだよ!!」

 ユージーンに縋ろうとして、護衛に押しとどめられながら、リルるんは必死に訴える。

「副葬品……?」


 意味は分かる。死んだあと、墓所に一緒に入れるものだ。

 だが、夫が副葬品とは……


 リュシオスが、先にリーリアント皇女が死んだらリルるんは墓に生き埋めにされるのだと教えてくれた。


「皇女殿下の墓に生き埋めか……貴方が先に死んだ場合は?」

「剥製にされて、あの女が死んだら一緒に墓行きだ……」

 泣きながら言うリルるん。


「……で、こちらの捕虜になって、あわよくば永遠に手が届かない場所に逃げたいと」

「そう! 分かってくれるか! 王子様!」

 希望に縋るようなリルるんを見ていると、可哀想になってくる。


「俺を使ってあの女暗殺してくれ!!」

 かなり思い詰めているようだ。


「落ち着いてくれ。リルベルド殿。

 とりあえず、貴方の身柄は私が預かる。処遇は陛下に相談してからになる。

 ……それでよろしいか?」


「ああ! ああ!! 頼む!!」

 また地に身を投げるリルるんに、リリアに殴られつつも大事にしてもらえる自分は幸せなのだと、ユージーンは思った。


 将来リリアの尻に敷かれることは覚悟しているが――これは、尻に敷く以前だ。



◆◇◆◇◆


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LeliantⅣ ~精霊が求めたもの~ 副島桜姫 @OukiSoejima

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