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第一章
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囮にある程度の大隊を国境に置いてはどうかという意見もあったが、ユージーンは退けた。
何故なら、リュシオスが言った次のメルフィース軍は――スウォード・ドルメット将軍の軍。つまり、リーリアント・ジュレア・メルフィース第四皇女の居る軍だ。
大隊など置けば、それこそ魔弓で全滅させられる。
それを告げると、重鎮は絶望した。
大国二国を抵抗もさせずに滅ぼした皇女にどうやって対抗するか、諦めの声もあった。
メルフィース軍は、本気でトルメリアを潰しに来たのだ。
だが、無敵の皇女でも攻略法はある。彼女は魔弓士だ。
つまり――懐に潜り込めば、勝てる。
詠唱破棄ができるとはいえ、弓を構え矢を番えなくては魔弓を射ることはできない。
まだ皇女軍は来ていない。今のうちに隠れて奇襲に一番良い場所を確保しておく必要がある。
小隊程度の顔ぶれで進行するうち、
「止まれ」
ユージーンは声を潜めて言った。
そして――
「そこにいる者! 武器を置いて両手を頭に置いてこちらに来い!」
目の前の森に向かって言う。
魔導士ではない。戦士だ。
やがて――
「隠れるのは自信あったんだけどな……」
独り言ちながら、茶髪の男が指示通り両手を頭に置いて森から出てくる。
背は平均程度だが、鍛えているのは明らかな身体つきだ。軽装鎧を着ている。
戦場には不釣り合いな飾り付きのチョーカーをつけた、十人並みの顔立ちの男だ。
平々凡々な男に見えた。
「メルフィース軍か? 所属と名前を言え」
ユージーンの声に、男は頭の上でひらひら手を振りながら、
「正式に所属してねぇが、メルフィースの人間だよ。さっきも言ったけど所属はない。
リルベルド・ディーマスだ」
ユージーンの後ろの面々が沸き立った。
当時、敵国ではなかったメルフィースの第四皇女が、平民出身の男と結婚したことは吉報として振り撒かれていた。
古い名がリルベルド・ディーマス。その後、皇女と結婚するために大貴族の養子となり、正式に婚姻を結び、「リルるん」という皇族名を与えらえたと聞いている。
ちなみに、「リルるん」の「るん」に皇族への敬称が含まれ、メルフィースの者はリルるんリルるんと呼んでいるらしい。
「リルベルド殿とお呼びしろ」
後ろの面々に言う。リュシオスがそう言っている。
「リルベルド殿。貴方は偵察か?」
「いや、違う違う」
また緊張感なく頭の上で手をひらひら振って、リルるんは言う。
しばしの沈黙。そのうちに、リルるんの顔に真剣さが入った。
「頼む! 俺を捕虜にしてくれ!」
手を頭の上にという指示を破り、身を地に投げ出してリルるんはユージーンに頼み込んだ。
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