第4話 最重要! フリーランス新法施行後に起こること 後編

 さて、今回は後編である。

 実は前編と後編に分けているのには理由がある。それも二つ。


 完全に余談だが誰かに聞いて欲しいので読んで欲しい。筆者がフリーランス新法について確認したいことがあり公正取引委員会の相談窓口に電話した。


 施行が近いということもあってか、通話中だった。

 何度かけても通話中だった。


 それでも何度も何度もかけ続けたらようやく出てくれた。


『はい公正取引委員会です』

「あの、フリーランス新法について確認したいことがあるんですが」

『あ、では専門部署に取り次ぎます』


 数分経過。


『はい公正取引委員会ナントカ課です』

「あの、フリーランス新法について確認したいことがあるんですが」

『あ、では担当者に取り次ぎます』


 数分経過。


『すいません、今担当者が席を外してまして、折り返し電話しますのでお名前と電話番号を…』

「…あ、はい。○○と申します…」


 数分経過。


『もしもし、公正取引委員会ナントカ課担当ダレソレです』

「あの、フリーランス新法について確認したいことがあるんです。第十三条についてなんですが…」

『あ、第十二条以上は管轄が変わって厚生労働省になるんですよ。申し訳ありませんがそちらに聞いていただけますか?』


 ようするにフリーランス新法は、第何条かによって管轄する省庁が変わる。つまり前編で触れた禁止事項などは公正取引委員会だが、今回触れる12条等は厚生労働省管轄となるそうだ。


 とはいえ我々にそれほど影響がある話ではない。たとえば12条違反を公正取引委員会に申告したとしても、公正取引委員会から厚生労働省に情報が伝わるとのことだ。強いて言うなら、公正取引委員会に質問しようとしたら厚生労働省に聞いてと言われるぐらいである。


 そしてもう一つ。今回言及する12条、13条,14条,16条はいずれも「特定業務委託事業者」に課されるという点がある。


 前回触れた第五条の禁止行為などは、業務期間が一か月以上であれば我々が他のフリーランスに業務を委託する場合にも発生する。


 しかし前述したが、「特定業務委託事業者」と「業務委託事業者」の違いを覚えているだろうか。

「特定業務委託事業者」の定義とは、フリーランスに業務委託をする事業者であって、次の①、②のいずれかに該当するものだ。

① 個人であって、従業員を使用するもの

② 法人であって、役員がいる、または従業員を使用するもの


 我々フリーランスが「業務委託事業者」になり得るとは以前にも触れたが、従業員を雇って「特定業務委託事業者」になるというケースはあまり想定できない。(漫画家がアシスタントを業務委託ではなく従業員として雇う、ぐらいだろうか)


 よって今回言及する法律は、我々に義務を課すものではなく、逆に我々フリーランスにはあまり縁のなかったハラスメント通報や育児・介護に関する環境を改善するもの、ということになる。


 いずれも我々フリーランスにとってありがたい法律であることは間違いなく、ひとつずつ見ていこう。


 ※以下本稿で記されている「パンフレット」とは国が公開している「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット」のことである。毎回書くのが面倒になったのであらかじめご了承いただきたい。



4,募集情報の的確表示義務 (第12条)


「発注事業者はフリーランスを募集するときに嘘を言っちゃいけないよ」

 ということである。


 前述したように「特定業務委託事業者」は厳密に把握しておく必要がある。

 しかし我々フリーランスの側は、募集広告などをきっかけに仕事をもらった後、その広告に「虚偽があるじゃないか!」と思ったらあらためてこの法律を調べ直す、弁護士に相談する、公正取引委員会に申告する、ぐらいでいいと思っている。


 もちろん内容を知っておくにこしたことはないので、該当部分をパンフレットから転載する。


 発注事業者は、フリーランスの募集内容のうち、①~⑤について表示する場合には、

・ 虚偽の表示・誤解を生じさせる表示となっていないか

・ 正確かつ最新の内容となっているか を確認する必要があります。


 フリーランスと発注事業者との募集情報に関する認識の違いをできるだけなくし、業務委託後の取引上のトラブルを防止するため、発注事業者は可能な限り、以下の措置を行うようにしましょう。


・ 上記①~⑤の事項について、可能な限り具体的な内容を募集情報に表示すること。

・ 募集に応じた者に対しても上記①~⑤の事項を明示するとともに、内容を変更する場合には、変更内容を明示すること。


募集情報の事項


① 業務の内容

・成果物または役務提供の内容

・業務に必要な能力または資格

・検収基準

・不良品の取扱いに関する定め

・成果物の知的財産権の許諾・譲渡の範囲

・違約金に関する定め など


② 業務に従事する場所・期間・時間に

関する事項 ・業務を遂行する場所、納期、期間、時間 など


③ 報酬に関する事項

・報酬の額(算定方法を含む)

・支払期日

・支払方法

・交通費や材料費等の諸経費(報酬から控除されるものも含む)

・成果物の知的財産権の譲渡・許諾の対価 など


④ 契約の解除・不更新に関する事項 ・契約の解除事由

・中途解除の際の費用・違約金に関する定め など


⑤ フリーランスの募集を行う者に関する事項 ・フリーランスの募集を行う者の名称・業績 など




5,育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(第13条)


 さて、この項目はわりと興味深い。

 まず我々フリーランスといえば失業給付金がない。育休がない。介護休暇がない。


 もちろん我々はそれを覚悟でフリーランスをやっているわけだが、とはいえ出産・育児・介護はいずれも人間という種に必須である上に、ある日突然やってくる。それに対してなんら配慮をしていただけないと、人生詰みかねないという状況があり得る。賃貸に住むときだって勝手に住む人数を増やしてはダメだが、出産だけはOKと法律に記されてるほどだ(確か…)。


 そのあたりの環境を改善・整備しようというのがこの第13条であり、簡単にいうと「発注事業者に育児、介護への配慮義務を課す」というものだ。また覚えておいて欲しいのだが、業務委託期間が六か月をこえると、さらに妊娠、出産への配慮義務が発生する。残念ながら、育児給付金をくれるとか有給・育休に等しい「働かないけどお金がもらえる」という制度ではない。


 例によってパンフレットから引用する。


・発注事業者は、フリーランスからの申出に応じて、6か月以上の期間で行う業務委託について、フリーランスが妊娠、出産、育児または介護(育児介護等)と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。


・6か月未満の期間で行う業務委託について、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をするよう努めなければなりません。


 見ての通り、まず覚えておくべきは六か月という壁があることだ。


 六か月以上の期間で行う業務委託の場合、妊娠、出産、育児、介護への配慮義務が。

 六か月未満の期間で行う業務委託の場合、育児、介護への配慮義務が発生する。


 つまり発注事業者にはフリーランスへの育児、介護への配慮義務が発生する点は間違いない。業務委託期間が六か月をこえると、妊娠、出産への配慮義務も生じるというわけだ。


 問題はこの「配慮義務」がどのようなものを指すかである。

 たとえば、パンフレットに具体例としてあげられたケースの一つを見てみると、


「子の急病により予定していた作業時間の確保が難しくなったため、納期を短期間繰り下げたい」との申出に対し、納期を変更すること。


 とある。ようするに業務委託期間が六か月以上の場合、妊娠・出産・育児・介護に伴う突発的な急務が発生した場合、締め切り延長するぐらいはどうにかなる、ということだ(業務委託期間が六か月未満の場合は育児と介護)。


 ちなみに重要なポイントが二つある。

 一点目。妊娠、出産への配慮義務については夫にも発生する点だ。


 つまり夫がフリーランスで妻が会社員であった場合でも、妻が妊娠した場合には夫が妻の通院等に付き添えるよう発注事業者に配慮を求められるわけだ。


 漫画誌などで「作者の体調不良による連載休載」ということが珍しくない昨今だが、フリーランス新法施行後はさらに「作者の妊娠・出産・育児・介護による連載休載」という事態があり得そうだ。


 もう一点のポイントとして、配慮義務が発生するのは妊娠・出産・育児・介護という四種だけということだ。条文を読むと「育児介護等」と記されてるところがあって他の状況でも適用できるのかなと思ったのだが、よく読んだら別にそんなことはなかった。


 その他、パンフレットには「望ましくない取り扱い」の具体例がある。これを見れば、大体どんな内容か分かってくると思う。


「望ましくない取り扱い」に該当する例


●フリーランスが育児介護等の配慮を受けたことを理由として、発注事業者の従業員が繰り返し・継続的に嫌がらせ的な言動を行い、フリーランスの能力発揮や業務の継続に悪影響を生じさせること。

※ 申出をした、または配慮を受けたこととの間に因果関係がある行為であるかが判断基準になります。


「望ましくない取り扱い」に該当しない例


●育児のためこれまでよりも短い時間で業務を行うこととなったフリーランスについて、就業時間の短縮により減少した業務量に相当する報酬を減額すること。


●配慮の申出を受けて話合いをした結果、フリーランスが従来の数量の納品ができないことがわかったため、その分の取引の数量を削減すること。




6,ハラスメント対策に係る体制整備義務 (第14条)


「発注事業者およびフリーランスの業務にかかわる者はセクハラをはじめとしたハラスメントをしちゃだめだし、万が一ハラスメント行為があった場合の通報窓口も作らないとダメだよ」


 以上である。


 たとえば企業に勤める会社員ならハラスメント行為が発生した場合、社内に通報のための窓口があった。今後は社員だけではなくフリーランス向けの相談窓口も設置義務化されることになる。


 フリーランス新法施行後は、セクハラ、マタハラ、パワハラ等を受けた場合、この14条に基づいての対応を求めることが可能になる。覚えておこう。


 少々問題があるとすれば、「具体的に何がハラスメントに該当するか」が意外と分からないという点だ。昨今会社員ならば講習を受ける機会があるが、我々フリーランスにはそれがない。パンフレットから該当部分を引用するので、ざっと目を通しておくことをオススメする。


【セクハラ】

セクシュアルハラスメント


対価型

性的な言動に対するフリーランスの対応により、契約の解除等の不利益を受けること。


環境型

フリーランスの就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じること。


【マタハラ】

妊娠・出産等に関するハラスメント


状態への嫌がらせ型

フリーランスが妊娠・出産したこと、つわりなどにより業務を行えないことなどに関する言動により就業環境が害されるもの。


配慮申出等への嫌がらせ型

フリーランスが妊娠・出産に関して法第13条の配慮の申出をしたことなどに関する言動により就業環境が害されるもの。


【パワハラ】

パワーハラスメント


定義

業務委託に関して行われる①取引上の優越的な関係を背景とした言動であって、②業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③フリーランスの就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの。







7,中途解除等の事前予告・理由開示義務 (第16条)


 一言で言うと、


「フリーランスに六か月以上の期間で業務委託したら、フリーランス側に非でもない限り契約解除ないし不更新にするときは30日前までに事前予告しないとダメだよ」


 というものである。

 いわゆる「解雇の事前予告」は会社員にも似たような法律があり、同じことを我々フリーランスにもしてくれる、というわけだ。ただ我々フリーランス側に非がある場合はこの限りではないが、それは当然というべきだろう。


 また一つややこしい点として、「何をもって六か月以上の期間と数えるか」がある。 たとえば「単一の業務委託」、すなわち「六か月ウチで働いてね」といった契約であれば分かりやすい。


 では「毎月ごと自動更新で六か月経過」といった場合はどうだろうか? この場合、次の条件を満たせば六か月以上とみなされる。


①契約の当事者が同一であり、給付または役務提供の内容が一定程度の同一性を有すること

②空白期間が1か月未満であること


 これ以上ここで解説すると文字数がかさむ上にややこしくなる。詳しくはパンフレット26ページを見て欲しい。


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[施行間近]フリーランスが知らないと損する! フリーランス新法のはなし 師走トオル @December

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