第3話 最重要! フリーランス新法施行後に起こること 前編

 我々の業務がフリーランス新法の保護対象になるとする。

 そうなったとして、我々の業務は今後どうなるだろうか。

 フリーランス新法で一番重要となるその点を解説していきたい。


1,取引条件の明示義務 (第3条)


 まずフリーランス新法の適用業務となると、発注者側には取引条件の明示義務が発生する。つまり我々への業務依頼が、口約束ではダメになる。発注事業者には必ず事前に書面かメールなどで報酬や締め切りなどの諸条件を提示する義務が発生する。


(なお個人的にほっとしたのだが、どうやら我々に「中身を確認してサインと押印して返信」といった義務は特にないようだ)


 この書面には、以下の項目を記載することが必須とされている。

 読み飛ばしてもらっても構わないが、今後取引でトラブルが生じたときなどは一度見直してみるといい。「そもそも今回の取引、フリーランス法第三条に違反してるじゃないですか!」などと言えるようになれれば交渉で優位に立てる。


(※以下、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット」から転載)


① 業務委託事業者および特定受託事業者の名称

→発注事業者とフリーランス、それぞれの名称


② 業務委託をした日

→発注事業者とフリーランスとの間で業務委託をすることを合意した日


③ 特定受託事業者の給付の内容

→フリーランスにお願いする業務の内容


④ 給付を受領または役務の提供を受ける期日

→いつまでに納品するのか、いつ作業をするのか


⑤ 給付を受領または役務の提供を受ける場所

→どこに納品するのか、どこで作業をするのか


⑥ 給付の内容について検査する場合は、検査を完了する期日


⑦ 報酬の額および支払期日

→具体的な報酬額を記載することが難しい場合は算定方法でも可能です。

支払期日は、具体的な支払日を特定する必要があります。


⑧ 現金以外の方法で報酬を支払う場合は、支払方法に関すること

※ ⑥および⑧は該当する取引である場合のみ明示が必要な事項



 繰り返しになるが、この取引条件の明示は電話など口頭で済ますことが禁止されている。ただ書面ではなく電磁的方法、つまり電子メールや「送信者が受信者を特定して送信できるSNSメッセージ」で提示することは問題ないそうだ(下請法より緩和されている点)。


 重要な点として、これは他人事ではなく我々も同様という点が挙げられる。

 つまり我々が業務を誰かに委託する場合、三条書面の明示義務が発生する。継続的にアシスタントを雇ってる漫画家などは注意が必要だろう。


 なお私見かつ完全に余談だが、今後これは「三条書面の送付」とかの呼称になると思ってる。下請法でも第三条にほぼ同じ項目があり、三条書面と呼ばれているためだ(逆に下請法の三条書面と混同するからという理由で別の呼称になるかもしれないが)。




2,期日における報酬支払義務(第4条)


 これは一言で言うと、「成果物の提出が完了したら60日以内に報酬払わないとアウト」ということである。その点さえ理解していれば後は読み飛ばしても構わないと思っている。


 そもそもこれは下請法制定の時から相当厳しく定められていて、たとえば


「60日後に支払おうとしたんですが銀行が休業日で」

「それ事前に合意してた? してない? アウト!」


 といった事例の枚挙に暇がないほどだ。


 注意点があるとすれば、「何をもって成果物の提出が完了した日となるか」という点だ。たとえば我々が成果物を提出したとして、一度の提出で完了することは稀であって修正が入る方が多いだろう。


 ただその修正も「フリーランスの責めに帰すべき理由」があるかどうかで考え方が変わる。発注者側の都合による再修正指示などは「再委託」にあたり、期日の数え方に変化があることは注意が必要だ。


 この辺り、細かい事例を説明してもあまり役に立たないと思うので、詳しくは「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット」を参照して欲しい。なんと実に4ページにもわたって詳細に解説してくれている。



3,発注事業者の禁止行為 (第5条)


 最重要である。


 あなたが今後フリーランスとしてやっていくなら、この項目を知らないのは労働基準法を知らずに会社員をやるようなものだ。


 ただ内容はそれほど難しくない。

 簡単に言えば、「フリーランスに1か月以上の業務委託をしている発注事業者には、7つの禁止行為が課せられる」ということだ。


 以下に転載する。



7つの禁止行為


1 受領拒否

 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること


2 報酬の減額

 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること


3 返品

 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと


4 買いたたき

 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること


5 購入 ・利用強制

 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること


6 不当な経済上の利益の提供要請

 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること


7 不当な給付内容の変更 ・やり直し

 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること



 発注事業者がこれら7の禁止行為のいずれかを行ってしまうと、

 フリーランス側に事前に了解を取っていようが、

 契約書にサインしていようが、

 問答無用で違法になる。覚えておいて損はない。(学校では教えてくれない「強行法規」というものだ)


 なお繰り返すが、これら禁止行為は「フリーランスに【1か月以上】の業務委託をしている発注事業者」に課される。

 大事なことなのでもう一度言いたい。【1か月以上】の業務委託だ。【1か月未満】では意味をなさない。



 そして突然だが、ここでクイズを出したい。


 前項「期日における報酬支払義務(第4条)」は、「成果物の提出が完了したら60日以内に報酬払わないとアウト」というものだった。

 では【1か月以上】とは実際何日のことだろうか?


 一か月というからには10月11日から11月10日までのことだろうか? だがその場合、二月に契約をすると期間が減ってしまうことになる。そんなことが許容されるのだろうか?



 正解は「国が60日といえば60日で、一か月と言えば一か月」である。

 そう、

・10月10日から業務を始めた場合

・2月10日から業務を始めた場合

 この二つでは同じ一か月でも期間が変わるのである。覚えておいて損はない。



 また前述したが、これらの禁止行為は下請法や独占禁止法でもほぼ同様のものが定められている。一方で下請法四条一項7号などであった「報復措置の禁止」はここにない。(違法行為を公正取引委員会等に知らせたことを理由として不利益な取り扱いをすることを禁止するもの)


 しかし心配は不要で、フリーランス新法第六条第三項に記されていることは覚えておいた方がいいだろう。


第六条第三項

業務委託事業者は、特定受託事業者が第一項の規定による申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。


 さて、七つの禁止行為の話に戻ろう。

 実はこれら七つの禁止行為、かなり幅広い事例で使える。


 弁護士さんにも相談したのだが、たとえば次のような事例が想定できる。


 出版社Aの依頼を受けた作家Bが、一か月以上かけて原稿を書き上げたとしよう。しかし出版社側からボツを出され、お蔵入りとなったとする。この際、作家Bは「出版社Aの判断はフリーランス新法の禁止行為①受領拒否に該当する」と訴えることが一応は可能になる。


 少々奥歯に物が挟まったような表現で恐縮だが、非常に厄介な点として、今のところ前例がないこと、そして法律の適用は常にケースバイケースという点がある。


 争点は無数にある。たとえばそもそも執筆依頼があったといえるのか(単に書いてくれたら載せるよ、という約束ではなかったのか)、出版社Aは作家Bがこの仕事を仕上げられるだけの力量があると見定めた上で依頼したのか。作家Bは、明らかに手を抜いた原稿を書き、そのために出版社Aはクオリティ未達としてボツにしたのかもしれない。ボツの理由の立証、あるいはその反証など一体どうすればいいのか。


 大体、ボツを出されたという理由で法に訴える、などということが常態化すれば編集サイドはボツを出すことを恐れ、出版業界全体の縮小につながることは間違いない。筆者は本を出す側だが、ボツを出されたからといって公正取引委員会に申告、という手を取る気にはならないだろう。再度修正するかとっととよその出版社へ持っていく。


 何より、仮に違法と認められただけでは意味がない。「本を出版すべし」と審判が下るのか、あるいは損害賠償を認めてくれる余地があるのか。前述の通り我々の書く原稿は「汎用性ないし転用の可能性がある」から、たとえ損害賠償が認められたとしても雀の涙ほどになる可能性は大いにある。


 しかしながら、法律はケースバイケースである。「いくらなんでも悪質ではないか」、という受領拒否のケースはあり得る。よく耳にするのがこんなケースだ。


「あなたのアップしてる作品は面白い。私の指示通り修正してくれれば絶対書籍化できるから一緒に頑張りましょう」

 ↓

「編集長からNG出てダメになりました」


「私の指示通り修正してくれれば絶対書籍化できるから」という部分が証明でき、

かつフリーランス側がその指示を忠実に守ったと仮定した場合なら、

「さすがにそれはないのでは」と誰もが思うのではないだろうか。


 本当にどうしようもなく理不尽で不当な目に遭ったと思ったそのときは、あなたが公正取引委員会に申告することを妨げる理由はどこにもない。


 さて、このように7つの禁止行為は個別に解説していく価値が十分にあるのだが、あまりに時間がかかる。何度も言うが本原稿はノーギャラである。時間ができたら解説ページを追加できる日も来ると思うので気長に待っていただけないでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る