第82話

「単なる都市伝説なのに」

 そう、今やってきたカップルのように、おもしろがったり、怖がったり。

 それがふつうだ。

「変わってるよな。プレヌって」

 胸の奥から複雑に混合したなにかが湧き出てくる。

 ただ、表出できるのは、笑いだけ。

 むしょうにおかしくておかしくて、目尻に涙が浮かんだ。



「そう?」

 そんなことは露知らず、プレヌは不本意そうに首をかしげ、よく言われるのよねーと、膝に乗せた腕で頬を支える。



「自分ではこうのうえなく正常のつもりなんだけど」

「あぁ」

 指先で目尻の露を弾いて、ロジェはうなずく。



「まっとうすぎて、変わってる」



 呪いの絵画が置いてある部屋が今は、春の雨を描いた水彩画のような景色に見える。

 きょとん目を見開いた後、プレヌもかすかに笑う。

 失礼しちゃうわ、とおどけて腕を組みながら、身体を背けた彼女の瞳には映らなかったが。

 思いきり笑ったあとのロジェの顔には一ミリの冗談もなく。

 考え込むようにじっと目の前の休憩テーブルを見つめていた。

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