第76話

 自分でも説明がつかないが、プレヌは不満だった。

 彼女の心の奥の箱をロジェは、頑なにリボンで縛った箱をほどいて、いつも開いてしまうくせに。



「あなたは、なんにも話してくれないのね」

 ぷくっと膨れて、考えるよりさきに、言葉が口をついて出る。

「……ドレスやスイーツを一方的に与えられるだけでは嫌だわ。そんなのは友達じゃない」

 反応が返ってくるのに数秒要した。



「友達?」



 彼が呟いたそれがまるで生まれてはじめて聞いた単語のように響くのがいっそうおもしろくない。

 うつむき、押し殺した声で、プレヌは応じる。

 わたしは、そのつもりだけど、と。


「友達からは、なにか与えられるだけじゃなくて、わたしがその人にとって、なにかを与えられているって思えなくては。物質的なものでなくてもいい。その友達が必要なものや、好きなもの。今まで見たこともないもので、すてきだと思える体験や言葉――」



 ぷっと噴出し、そのまま笑う声がする。

 向けられたロジェの瞳はすっかりいつも通り。

 余裕たっぷりだ。



「目に見えない大事なものか。いかにも気取ったフランス趣味の言葉だ」

 言葉の背後に潜む教養にはっと気づく余裕すら、今のプレヌは失くしているというのに。むっと結んだ唇をまげて、その顔を宙に逸らす。

「ごめんあそばせ。象徴的な我が国の文学らしく、婉曲な表現でわかりづらかったかもしれないわね。つまりこう言いたいの。――わたしにできることはないか、って……」

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