第75話

 とくにあの噴水は見たくなかった。

 はじめて人を殺めた場所。

 束ねた針を刺されるような水の中。


 ナイフで皮膚を裂いた、感触。


「どうしたの?」

 

 顔を背けたロジェを追いかけるように発せられたプレヌの声は、一瞬前までの呑気さをかなぐり捨てていた。

 異変を察し鋭さを含んだその声を落ち着かせるために、どうにかしなくてはならない。


 

 ただ、今この頭はその対策にすら動いてくれそうになかった。

 わしづかみにされたように胸の奥に走る激痛。

 今向きなおれば息が上がっているのがプレヌにもわかってしまうだろう。

 どうしたのだろうと思う。

 軽い頭痛やフラッシュバックは人前では抑えられたのに。

 しばらく、発作が落ち着くのを待つしかなさそうだ。



 痛みが鈍いものに変わり、いくらか和らいだとき、ロジェはようやくプレヌに向きなおる。


「なんでもないよ」


 困ったような苦笑にぶつかったのは、どこか寂しげで、不安そうな瞳。


「連携プレイをする仲間に正直は基本なんじゃないの?」

 そう言うとプレヌは、すねるようにぷいっと庭園に顔を背けた。

 ロジェの瞳が、かすかに見開かれる――。

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