第74話

 広大な店内をくまなく捜索したあと、ぬかりなき追跡者は庭も調査対象に加えることを所望した。



「すごくすてき。ヴェルレーヌ宝石店の庭園って雑誌で読んで憧れてたの!」

 バラで統一された、広大な庭園。

「サイドの芝生にこうやってじかに腰を降ろすと、バラがハートの形をつくっているように見えるって、書いてあったわ」

 弾むように砂の通りから芝生に飛び乗ると、躊躇することなくプレヌはそこに腰を下ろした。

 空色のドレスが惜しげもなくグラスグリーンに広がり映える。



「ほんとーっ。噴水から吹き出すしぶきがハートにかぶせてある冠みたい。ロジェも座りましょ」

 隣のロジェは、黙ったままプレヌに倣い腰を下ろす。

 正確には、苦痛の声が漏れ出そうだったのを噛み殺していた。

 座り込む、といったほうただしいかもしれない。

「……ロジェ?」



 ――まずい。

 油断すると震えがきそうな腕を、抑え込む。

 突風に煽られたように、蘇る鮮烈な記憶。



 あまりに美しい花園は、父が仕向けた奴隷たちから逃げたあの場所だった。

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