第57話
ヴェルレーヌ社長にとって少年は、正妻ではない女とのあいだに自らがこさえた私生児。端的に言えば、輝かしい経歴の汚点だったからだ。
『失敗作そのもののお前が唯一、生き延びる道は』
彼は不本意で存在させた不都合な息子に、こう説いた。
『殺すことだ』
その一言に少年はとうとう、反発を抑えきれなくなった。
口答えすれば折檻はまだいいほうで、最悪広大な庭の湖につきおとされたこともある。早くも抵抗は無駄だと悟っていたので、十歳になるその日にそう告げられても、言い返すことこそなかった。
ただ。
内心では激しい嫌悪と抵抗がたぎっていた。
自らが受けてきた理不尽の諸々を、別のはけ口を見つけて吐き出すことを彼は選ばなかった。
殴打され、食事も与えられずに一人、地下室で飢えに苛まれる中で育っていったのは、他の誰にもこんなことを味わわせたくないという想いだった。
呪いのような冷たい権力者が君臨し牛じる一族の中に神が過ちで落とした魂なのか。
一族の外の者には彼の存在は極秘にされていたが、それでも屋敷に仕える中で哀れに想ってくれた少数の人々の施しを受けて、どうにかしのいできたからか。
冷徹な一族の中にあって少年は、優しすぎた。
今まで差別や虐待に虐げられ、それでも生き延びてきたのは、人を殺めるためだったと言われて納得できるはずもない。
殺しを命じられ彼は内心で強く決意した。
今度こそ父に従うまい。言いなりになってたまるかと思った。
どうにか力をふりしぼれば抵抗できると、思っていた。
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