第52話

 心地よさにそっと目を閉じたとき、扉をノックする音がした。

 開けると、外にいたのはホテルのベルボーイだった。

「お手紙です」

「あぁ。ありがとう」

 扉を閉め、手紙の差出人を確認した途端に色づいた世界が灰色と化す。

 仕事場の一つである奴隷要塞から転送されてきたものだ。

 差出人はヴェルレーヌ社長――雇人であり、父でもある人物からの呼び出し状だった。



「悪い。少し出かけてくる」

 引き締めるのを通り越してこわばった表情でジャケットを羽織るロジェを、心配そうな視線が追ってくる。

「どこへ?」

「その。出張場所の下見、っていうか」

 相手の事情を追求した直後の嘘に罪悪を感じながら答えると、

「……そう」

 半分は察せられたのか、プレヌはそれ以上追及してこなかった。

 ただ、部屋を出るまで終始気遣わしげに見つめてくる視線は、咎の意識を強めた。

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