第51話

 つきとめた事実を受け止めるように、ロジェの瞳が細くなる。

 奴隷船長としての勤め先であるヴェルレーヌ宝石社のいわばライバル社であるコルネイユ宝石社については聞き及んでいる。

 公に漏れていないが、触れた人間の感情を消し、意のままに従わせるのだと。



 ――そういうことか。

 いかにも、目の前の女性とそういった力とは対極的なものに見える。



「そんなことを理由に肩身の狭い想いを強いられたのは、不運としか言いようがないけど」

 知らず逸らした瞳を軽く閉じて。



「でも、受け継がなくてよかったよ」



 気づいたらしみじみとそう口にしていた。

 そっと隣を窺うと、励まされたように、頑なだったプレヌの瞳の奥が緩んでいる。

「……そうね。あんな力を持っていたら、多くの人々のかけがえのないものを奪うことになったんだから」

 どこまでも真面目な回答に口元を緩め、ロジェはさりげなく修正した。



「仮にきみが、力を持っていたとしても、人を意のままに操るとか、そういうことはできないと思う」



 不思議そうに小首をかしげてこちらを見てくるそれはまるで、新種の木の実にでも出会ったりすのよう。



「そうかしら」

「そういう性質ってことだ」



 首をかしげながらロジェの言葉を懸命に咀嚼しようと頭をひねる彼女の傍らで飲む紅茶。

 ぬくもりだけでも心地よかった――味は、しなかったが。



 正確には感じることができないのだった。

 とうの昔に起きたあることをきっかけにロジェは味覚を失った。

 そんな事実すら今この瞬間にはどうでもいいことに思える。



 血の味は消えて。

 ほのかなピュアバニラの香りが胸を満たしていく。

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