第49話
「あとは、アフリカの密林の奥で。民族が狩ってきた動物でケパブを焼いたりとか」
「ケパブって?」
「四角い肉と野菜を串刺しにした料理。スパイスにはインドからとり寄せたものを使ったら、わりとうけたね」
「ジャンクフード、みたいな?」
「まぁ、そんなもんかな。神への捧げものに、現地で一番上等な肉を使うように、部族の長老に言われてさ。炎をかこって、不思議な楽器で音楽を奏でて、豊作を祝うんだ。太鼓の音と、歌う人たちの熱気はすごかったな」
進められるままにベッドに腰かけたプレヌは膝についた肘で頬を支え、天井を眺め出す。
「いいなぁ。わたしも見てみたい。きっと、この国にはないリズムやメロディーや、舞踊なんでしょうね」
ぽとぽとと、傾けたポットから流れる紅茶はベリーの香り。
誰かとただ、安らぐためだけの時間。
こんなふうに瞳をきらめかせて話に聞き入る人ははじめてで。
久しく絶えてなかったものに身を委ねたいような、不思議な感覚がロジェを包み込む。
「砂糖はいくつ?」
とうに二つのカップに紅茶を注ぎ、当然のようにトングを手にする彼を見て、プレヌの目が見開かれた。現実に戻ってきたらしい。
「またやっちゃった。わたしがおもてなしするつもりだったのに」
「そのでっかい目。何度見ても笑える」
遠慮なく笑わせてもらうと、いじけたような視線で彼女はティーカップを受けとった。
「あなたってちょっとまめすぎない?」
「ふつうだよ。きみが今まで接してきた男たちがえばりくさってたってだけだ」
途方に暮れたように、プレヌはティーカップを包み込んだ両肩を竦める。
「なんていうか、慣れてないの。誰かに靴を履かせてもらったり、あんなに華やかなドレスを着せてもらったり」
ベッドに腰かけているプレヌの隣に失礼し、ティーカップの湯気から立ち上る甘酸っぱい香りを堪能しながら、ロジェは心持ち眉をしかめた。
「どうも、ふつうに令嬢として育った人が言う台詞とは思えないんだよな」
「うっ」
動揺にカップを揺らしたプレヌが熱い、と、舌をかばう。
「図星か」
にやりと笑って、ロジェは自説を披露した。
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