第48話

 昼過ぎまで試作品づくりを続け、ロジェがようやく部屋に戻ると、扉の前にプレヌがいた。

 合った視線をかすかにうつむけて、彼女はもじもじと両肩を竦めた。その手にはティーセットの乗ったトレイがある。



「ロビーであたたかい紅茶入れてきたの。ずっとお仕事の準備をしていたみたいだし、そのモン・クールのお礼ができないかと、思って……」

 気恥ずかしいのかかすかに頬を染めて。

 試作品の味見を頼んだのはむしろこちらのほうなのに。

 笑みをこぼしつつ、ロジェは扉を開けた。

「入れよ」


 部屋に入って、最初にプレヌの視線を捕らえたのは、壁に貼った大きな世界地図だったようだ。

「わたしの部屋にはなかった」

「あぁ、それ。仕事の計画に使ってる」



 ぐるり首を回して、南北のアフリカ大陸から大西洋を挟んだヨーロッパにアフリカ大陸、インド洋にオセアニアへと視線を一巡させ、

「今まで、どんなところに料理を届けてきたの?」

 ぱっとこちらに向けられた瞳は好奇心に輝いている。



「トルコの船乗りにスペインのパエリアを紹介したりとか。青と白で塗装された街で地中海を眺めながら紙皿にのっけて、船乗りたちが豪快にがっついてた」

「まぁ、パエリアを紙皿で」

「運がいいと、ボートを出してくれてさ。絶壁の海岸に家々が連なった街を見せてくれた。口では言いつくせない眺めだな、あれは」

「絶壁に連なる街……」



 うっとりとしたプレヌの視線は早くも海の向こうへと漕ぎ出しているのがありありとわかる。

 ロジェがその手からティーセットを受け取ったことも気づいていないようだ。

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