第44話
「スイーツは完璧だけど。エスポール探しは二日目からどんづまりね。まるきり手がかりなしだもの」
手際よくも今度は試作アイスティー用の茶葉を大きなポットに入れながら、ロジェが応じる。
「ま、そう焦らなくてもいいんじゃないか? 手紙は出したんだろ」
「ええ、今朝一番に」
煮沸した湯を、たっぷり氷を詰めたグラスに注げば、スイーツによく合う春摘みダージリン・アイスティーの完成だ。
「昨日はだいぶ動いたし。スイーツ食べて、のんびり便りを待ったって」
「もう、呑気なんだから」
ことりと置かれたグラスの中身をごくごくと飲み干す。
ほのかにフルーティーですっきりした喉ごしが心地よい。
ぷはっと小気味のいい息を吐き出し、プレヌは一気に言う。
「彼が一度奴隷船に乗っちゃったら、長ければ一年は帰ってこないかもしれないのよ」
口に出して、過酷な労働から逃れることのできない文通相手の身の上を想い、なんとなく視線が落ちる。
「……船に奴隷の人々をぎっしり敷き詰めて鎖で縛りあげて、それは過酷な環境らしいわ。一生捕らわれの人生に絶望して死を望む奴隷の人も珍しくないって」
ロジェは黙って、テーブルの上に残ったタルトにラップをかけている。
「そりゃ、そうよね……。まともに人間扱いされず、誰かに命じられた労働をこなすだけの未来なんて」
バットの上にタルトをまとめ、保存庫に持っていく彼の表情からはなにも読みとることができない。
「彼、手紙で言ってたわ。奴隷の人に殺してほしいと願い出られるのは、気持ちがいいものじゃないって」
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