第3章 優しき奴隷管理官

第42話

 翌朝早くにプレヌの目は覚めた。隣の部屋の戸を叩くも、返事がない。

 ロビーに中庭と、ホテルをあちこち探し回ったあげく、思いがけない場所でロジェは発見された。



「もう起きたんだ。おはよう」

 萌黄色の大きな扉のついたオーブンから銀色のバットをとり出しながら、彼は軽やかに片手を上げる。



 傍らの調理台には、計量カップに、砂糖や小麦粉の袋。カットされた色とりどりのフルーツ。

 ロジェはフロント奥のキッチンにいた。

 聞けば、ホテルにいくらか払って借りているという。



「明後日依頼でスイーツ届けに行かなきゃなんないんだ。モンマルトルの丘への出張依頼。ソルボンヌ大学の学生と教授の親睦会だって」



 彼の両袖のボタンは外され無左座にたくしあげられているのに、ラフなシャツの襟元をきっちりと閉めているのが目にとまった。今は腕慣らし、と言いながら、真っ赤にアイシングされた桃とブルーベリーをタルトに乗せていくロジェの手元に、朝日の明かりが差し込む。



 モンマルトルの丘は、パリの北の外れ。神聖なサン・クレール寺院をいただきにかまえ、都会の喧騒を嫌う芸術家たちが眼下の街を絵画の題材にしたり、開放的な土地柄からインスピレーションのもととしている場所である。

柔らかな春の日に学生さんたちの親睦会。なんだか心が躍る。

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