第41話
手紙でつらい身の上を打ち明けられ、異国へ逃走するための船を出してほしいと言われたときは、どうしたものかと首をひねった。
奴隷船の管理官ではあるが、その船は所属するヴェルレーヌ宝石社のもの。自由にどうにかできるものではない。
ただ、受けている処遇が深刻そうだったので、ひとまず落ち合い近場に避難させるつもりだった。
だが、手紙でやりとりするうちに、奇妙な願望が彼の頭をもたげた。
彼女を助けたその行動を買いたいと言われとき、それを明確に自覚した。
それは、世間から恐れられる殺人享楽者としてではなく、その仮面をはらった上で、この人と接したいというものだった。
――なんなんだろうな。
かすかに首をかしげながら、ロジェはジャケットを脱ぎ、シャツの襟元を緩める。
前例のない感覚に戸惑っているのは、プレヌだけではなかったのだ。
そのまま背中からベッドに横になった。
柔いシーツの感触を感じながら思うともなく思う。
もしかしたら今夜は、すんなり眠れるのではないか。
繰り返し現れる、はじめて人を殺めた日の悪夢も、身体のあちこちを襲う神経の痛みすらもなく。
ほのかな明かりを灯したままの部屋で、瞼がまどろみはじめる。
生まれてはじめて、明日という日に期待している自分に、ロジェはまだ気づいていなかった。
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