第38話

「ううん」

 そしてナイショ話をするように心持ち身をかがめ、

「むしろ助かったわ。これだけ忙しくしていなかったら、正直、身内全員に見放された事実を延々噛み締めてたと思うの」



 そう言うと、かすかに頬を染めてうつむき、

「だから。……ありがとう」

 聴き取れないほどの声でそう呟いて、直後、少し頬を膨らませ、

「エスポールには、リュクサンブールのどこにもいなかったじゃないって、手紙で抗議しておくわ」

「それがいい」

「それじゃ、また明日」

マッハの勢いで扉を開け、その扉につま先をぶつけあいたっと小さく悲鳴を上げると、

「……おやすみなさい」

 照れたように笑って、彼女は部屋に姿を消した。

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