第36話

 かといって謝罪するでも、感謝するでもなく。

 にこりとさえせずに。

 ぶっきらぼうな手つきで、少年はプレヌに片手を差し出した。


「ん」


 ささやかな水色の花弁と青いめしべ。

 道端に咲いていたブルースター。


 ロジェはあっけにとられる。


 ふふっと嬉しそうに笑みを零したプレヌが、大事そうにその根元に手を添える。


「ありがとう」



「――妹さん、元気になるといいわね」


 頭を撫でられ、それがいかにも不服だというように、


「ふんっ」


 二度目に小さな鼻を鳴らすと、少年はまた、走って行ってしまう。


「珍しいわね。ブス―スターなんて」

 自然界では珍しい青い色の花弁を持つブルースター。

 わざわざ捜したのだろうか。


 主な花言葉は『幸福な愛『信じあう心』。


 中には『早すぎた恋』なんてものも――。


「――あのガキ」


 片手を額にあてつつ、ロジェはぼそりと呟いた。

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