第26話

「ねぇ、どれもこれもすっごくお高いわよ」

 ロジェがこちらを向いた。

 琥珀色の瞳が宿すのは、挑戦的な笑み。

「こんなの買えるわけが――。わわっ」

 シュッと肩のあたりになにか液体を噴射され、思わず目を閉じる。

 髪にしみ込んでいく、ほのかな甘い香り。これは――ピュアバニラ?

 目を開けるとなるほどたしかにロジェは、ほのかにバラ色の混じった桃色のひし形の小瓶を手にしている。

 その瞳はおかしそうに、またいたずらっぽくまたたいていて。

「いっしょにいる男の懐の心配をするのは、女性に年齢を訊くことと同じだぜ」



 ……そういうものなのか。

 この年になるまでデートとかもまともにしたことがないのでどうにも勝手がわからない。

「髪も整えてやってくれ。仕上げにこれを振りかけて」

 惜しげもなくぷしゅぷしゅとロジェがもてあそんでいるその試供品のひと吹きは果たしておいくらかとつい計算してしまう。

 香水のカウンター担当らしい老紳士が、仰せの通りにと、胸に手をあてて礼をした。

「その前に奥様。こちら、当店の看板商品の広告でございます。よろしければ」



 なにがなんだかわからないままに、プレヌは丁寧に織り込まれた洒落たカード状の広告を受け取っていた。

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