第25話
「新入りパリジェンヌ。次はこっちだ」
店の奥にある白いソファに導かれるままに腰を降ろす。
似合っているはずないとか、こんな高価なもの試着してどうする気なのかとか、どうにもつっこみの隙を与えてくれない。
これではまるでほんとうに、魔法の杖を一振りされてしまったかのよう。
油断するとつい夢見がちになる思考がふわふわとそんな言葉を編み出すうちに、少し触れるよと断られ、脚になにかを履かされているのを感じる。
遠慮がちに優しく素足を扱われる感触は、決して不快ではない。
「靴はこれでどうかな」
ロジェがドレスにあわせてきたのは、動きやすいヒールが低めのパンプスだった。
ドレスに合わせたクリーム色の生地の中心にピーコックブルーの宝石が一粒、店のシャンデリアの光を受けあでやかに光る。
この色の羽をもつクジャクにでもなって、ふわふわと上空を羽ばたいているかのような、不思議な錯覚がプレヌを襲った。
眼下にそびえるは凱旋門、星型に広がるパリの街路――。
「他のドレスはこのホテルの住所に送ってくれ」
「かしこまりました」
「送料は――」
聞こえてきた現実的な単語に、一気に下界に連れ戻される。
立ち上がり、いつの間にか店内奥の長いショーケース兼カウンターに移動して羽ペン片手にお届け先住所なんか書いているロジェの肩をあわあわと揺さぶる。
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