第16話

 決めつけるもの言いに、多少むっとする。

「病気で伏せっていたとき、バラの花束を贈ってくれた」

「球根に毒でも仕込まれてんだろ」

「身の上話を延々と書いた手紙にも丁寧に返事をくれたわ。助けてくれるって約束した」

「海の向こうに売り飛ばされなきゃいいけど」

「エスポールが殺すのは、自ら死にたがっている人たちだけよ。それでもかなり、罪の意識に苛まれてるって、手紙で言ってたわ」

「極悪人が美談づくりがうまいのは常道だ」

「あの口ぶりは作られた美談なんかじゃないわ。でも、そうね。美的センスはあるかも。彼が異国の職人に作らせるというブルーダイヤのネックレスは、悪魔的な美しさだって噂だわ。きっと、それだけはほんとうだと思う……愛人にあげているっていう部分は、信じたくないけど」



「あれは死んだ母親へのたむけに一回作っただけだ」



「え?」

「あ」

 あわてて口をつぐんだ彼を、食い入るように見つめる。

「どうしてそんなこと知ってるの?」

 数秒間、カタカタと急くように回転する車輪の音だけが個室に流れる。

「もしかして、知り合い?」

 長く息を吐き、彼は首の後ろをかいた。

「ええと。まぁ……」



 あいまいにぼかすが、その口ぶりから察するにずいぶん恨んでいるようだ。

 もしかしてエスポールの所業を恨んでいて、殺された人々の敵を討とうとしているとか?

 もしくは、改心させようとしている?

「……そんなとこ、かな」

 あいまいな答え。だがたしかに、知り合ったばかりの相手においそれと語れる話ではないだろう。

 けれど。

 思わず両手で彼の手を握ると、数回の瞬きが返ってきた。

 いいことを聞いてしまった。



「それなら! わたしたち、目的が一致しているのね!」

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