第11話

 抑えつけられてきた年月が長いほど、その反動は大きい。

 翻した反旗は、逆転の兆し。

 驚いた御者が手綱を離しかけ、実際、危うく馬車をも逆転させるところであった。


「冗談じゃないわ。家族と夫のお望みどおりにどうして従順に消えていかなくちゃいけないの?」

 思えばプレヌリュヌはずっと邪険にされてきた。

 反発を行動で示してはいたものの、家族に口答えが許されたことはない。世間と自分の思惑が違うと思えば飲み込んで、ここまで来たのだ。

 どうせ死ぬならその前に一度くらい、芯からやってみたいことをやってみたとしたっていい気がする。

「決意表明もいいけど。いったいなにがあってあんなひどい目に?」



 降ってくる苦笑の声にプレヌリュヌは口元を結び、しばし間をおいて、うなずいた。

 彼には知る権利がある。

 暴行は日常茶飯事ではあったが。

 そう、今日のきっかけは。



「……昨日、庭の前で倒れていた人を、家に上げたの」

 馬車の窓に目をやり、プレヌは想いを馳せる。

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