第9話

 そのせいなのか、親は反面教師というよくある理のせいか、プレヌリュヌは幼いうちから、人を意のままに操る両親への反発を内に秘めて育った。

体裁重視の家族の中にあって、令嬢にあるまじき労働にせっせといそしんだ。自立などという非現実的な道を夢見て、日曜学校に教会の手伝いに精を出す。家族親族の中で孤立しがちな彼女にとって、外の人間関係は救いにもなった。



巷で流行りの恋愛小説に感化されて、好きな人と結婚したいとか言ってぎりぎりまで家同士の結婚を拒んだ。

望めば誰でも服従させてきた両親に、そんな娘がかわいいはずがない。

すぐ下に能力もしっかり受け継いだ器量も要領もいい妹がいるとなればなおさらだ。



群れの中の黒い羊である長女は家族から蔑まれ、理不尽なことで怒鳴られ時には体罰も受けた。

妹のミュリエルがその力を駆使して、上流階級の殿方を見事捕まえて婚約までこぎつけてからますます、家族のプレヌリュヌに対する視線は冷めていく。

ある日両親が陰で囁いていたのを聞く。



『宝石社の発展にてんで貢献しない。それどころか労働者のように働く娘など、体裁が悪い。プレヌリュヌをどこかへやれないものか』

『あなた。ちょうどいいお話があります――』 

 結果、家柄はいいが中身は問題だらけの夫のもとに有無を言わさず嫁がされ、結婚初日から暴力に悩まされることになる。

 気が利かないとか表情が気に入らないとか、お前みたいな女を押し付けられたこっちの身にもなれとか、理由は様々だ。

 殴られるほど、夫の拳はエスカレートし、暴行はいつも長時間に及んだ。



 プレヌリュヌは幼少期からあることに気づいていた。

 相手の感情を奪う一族とは真逆の力――触れた相手の感情を増幅させる力があるようだということに。

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