第8話
18世紀のフランス革命以後も、社会の動乱は目まぐるしい。ナポレオンの台頭に端を発して復古した王政を、力をつけてきたブルジョワジーと呼ばれる市民の代表が倒し王の座に成り代わった。
そんな中プレヌリュヌが生まれついたのは、その裕福な市民階級の家柄。
こんな時代にあって宝石商で大成し名を馳せたそこそこの家柄に生まれついた、その幸運すらものにできない。
なんとも報われない性質――それが、プレヌリュヌ・コルネイユの特徴だった。
プレヌリュヌの生家であるコルネイユ家は、パリに本店をかまえる中ではヴェルレーヌ家と並び、パリの二大宝石ブランドと称されている。コルネイユ家が銀採掘用の奴隷船を無数に所持するヴェルレーヌと肩を並べることができたのには、一族の者だけが知る、絶対部外秘の不思議な力のためである。
コルネイユの血を引くものは、直に肌に触れた相手を意のままにすることができるのだ。
相手の感情を無にする、とも言う。
彼らが触れて命令すればどんなあばれ馬も粛々と従ってしまう。
それも完全に操られているように能率よく、機械のように仕事をこなす。
所以もからくりも説明がつかない正体不明の力を、一族の者は代々誉のために活用する道を選んだ。
コルネイユ家は、手間も資本金もいらない膨大な労働力を駆使して宝石社を経営し、のし上がってきたのだ。
現在の経営者である父もまたしかり。
コルネイユ宝石社との取引には、覆える肌をすべて覆うべしという鉄則は、装飾業を営む者たちのあいだでは有名な話で、父と商業上の取引に来る人々が手袋とともに等しく首元をすっぽりと覆うようになにかを着けていたことが幼い日のプレヌリュヌの記憶に残っている。
あとで知ったことだがそれは対コルネイユ用の付け襟だった――首元に触れられて、感情を奪われるのを防ぐためだ。
恐れられ敬われていたコルネイユ宝石社であったが、その後継者はという話になったとき、問題は生じた。
長女のプレヌリュヌはまるきり、その力を受け継がなかったのである。
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