Act21.夢未 ~絵本とひらめき~

第53話

『名作の部屋』での勉強に疲れて、わたしは棚の一つに立てかけてあった絵本をテーブルまで持ってきて、見入っていました。

 サングラスをかけたおかっぱの女の子の表紙がコミカルでかわいい、『デイジー、スパイになる』という絵本です。

 なんだかおもしろそうで、ぱらぱらと、ページをめくっていきます。




 主人公の女の子、デイジーはある日、スパイになることを思いつきます。

「わたしはもうデイジーではない。006チョットだ」

 でもその試み、なかなかうまくいかないんです。

「もう、やーめた。だれもスパイのことばをわかってくれないんだもん」

 残念がるデイジーにいつしかわたしは心で語りかけていました。

 うんうん、あるよね、こういうこと。

 楽しい世界を共有したいだけなのに、誰もわかってくれないって、寂しいよね。

 ところが、次のページを見たわたしはおやと思いました。

 それはいじけてしまったデイジーが、ソファにごろんと寝転がり、テレビのスイッチを入れようとしたときでした。

 ページをめくると――むらさきいろのひげをはやした、へんなかっこうの人が、ドアから顔をのぞかせましたと、書いてあります。

「わたしは〔0021チョット〕というものだが、

〔006チョット〕をさがしていたのだ。

 わたしも、ほんもののスパイなのさ」


 そこまで読んで、ふふふっとわたしは笑いました。

 この〔0021チョット〕、挿絵を見たらだれのことだかまるわかりです。

 ほかほかした気持ちで、さらにページをめくります。

(ママ、ありがとう。ママは世界でいちばんのスパイだよ!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る