Act20.夢未 ~少女ホームズの悲しき謎解き~

第51話

 栞町駅ビルのカフェ『グリムの森』で、星崎さんのお昼休みに、わたしたちは向かい合っていました。

「急に連絡が来たからびっくりしたよ。どうしたの、急ぎ伝えたいことがあるって」

 席についた星崎さんは、言いました。

 アイスコーヒーとカフェラテが運ばれてくるのを待って、わたしは切り出しました。

 星崎さんは、今日もやっぱり長袖のローアンバーのカーディガンを羽織っています。



「謎解きの、答え」

 そっと、わたしは彼に告げました。

「夏なのに長袖なのは、火傷の跡だったんですね」

「あぁ」

 星崎さんは苦笑して、袖に覆われたままの両腕を掲げます。

「まさかほんとうに解き明かすとは思わなかったな」

 どうやって答えにたどりついたのか、という問いが来る前に、わたしは推理披露を続けます。



「十三年前の、栞町の、事件」

 軽く、彼が息をのみました。

「そこまで明らかにされるとはね」

 でも、そんなかすかな表情の変化も、優しい笑顔に飲まれてしまいます。

「なかなか壮絶でしょ。でも、小さな名探偵さんがつきとめるには、少し重すぎる謎だったかな」



 なんてことはないように笑っているけれど。

 ごめんなさい、とわたしは心のなかで彼にお詫びしました。

 今からその笑顔の奥にあるものを、少しだけはがさせてもらいます。

「それだけじゃないんです」

 わたしは背筋を伸ばしました。

「少年だった星崎さんを引きとろうとしてくれた人たちの書類が、栞の園でことごとく燃やされていたって」

 星崎さんは目を見開きました。

「驚いたな。そんなことまで調べたの?」

「ごめんなさい。栞の園の院長さんにお話を聴きました」



 しばし目を閉じたり開いたりしたあと、ふっとその瞳が和らぎます。

「懐かしいな。遠野院長、元気だった?」

「はい。星崎さんのこと、ほめてました。利発でいい子だったって。それでその」

 数秒ためらい、わたしは話題を戻します。

「書類が燃やされたときの、ことなんですけど」

 彼はふっと、笑顔のまま表情を崩し、

「もう十数年も前の話だ。きみが気にかけるのに値することじゃないよ」

 そうして、今度はきれいに笑いかけてきました。

「よくできました。この話はもう終わり。こんなどうしようもない事柄なんかより、夢ちゃんくらいの女の子は、きれいなものにたくさん目を向けていないと。夢にあふれた文学や、きらびやかな服や、それに――」



「犯人は、星崎さん、だったんですよね」

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