第50話

 心の中のシャーロックに、ちょっとだけ文句を言います。

 名探偵さん、解かないほうがいいナゾだってあるじゃないですか。

 ところが、心の中のすらりとした、パイプをふかしたその人は、意味深に首を横に振ったのです。



『選択肢を一つ一つ消していくと、おのずと一つの事実が浮き上がってくるのさ。どんなにあり得なそうなことでも、それが真実』



 だから、それはもうわかってますって!

 バス停のど真ん中、思わず心の中の名探偵にそう叫ぼうとしたときでした。

「――」

 夏の終わりの風が、制服の中に入り込み、通り抜けていきました。

「あ……」



 にわかに見えてきた、一つの真実。

 それはあまりに痛ましく、頭痛すらもよおします。

「……そんな……」



 彼の過去をここまで追ってきて。

 たどりついた真実が。

 それがこれなの。



 こんなことって………。

 わたしは一人、その場にしゃがみこみました。

 栞町駅行きのバスが一台やってきて停車し、誰も乗せることのないまま、出発していきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る