Act19.夢未 ~少女ホームズ、奮起する~
第47話
図書館を出たその足で駅に向かい三駅目で下車をして、バスに乗りながら、まだ全身にしびれたような衝撃は色濃く残っていました。
『栞の園』という看板がかかった門と、朽葉色のこじんまりした小さな屋根を前にしたとき、決壊はとうとう訪れました。
堰を切ったように、しゃっくりと涙が――声まであふれてきて、どうしようもなくなって、わたしはその場にうずくまりました。
図書館で見た記事がよみがえります。
十三年前、栞町の海岸で、当時十三才だった少年を車に置き去り、火を放った両親が逮捕されたとそこには書いてありました。
栞の園――この施設に引き取られたという被害者の少年の名前は伏せられていたけれど、わたしはすでに確信めいたものを持っていました。
長袖に隠された腕。
書店で知り合っただけの少女に、七年間も注ぎ続けてくれる優しさも。
彼が、星崎幾夜というその人がその少年であった、立派な証拠である気がしました。
実の両親に狭い車に閉じ込められて、命を奪われそうになったなんて。
十三年前のその子はどんな想いで、この施設の前に立ったのでしょう。
「あなた、どうしたの?」
気が付くと、セピア色のカーディガンと、クリーム色のスカートをまとった、ご年配の女性が、そっと、号泣するわたしの背に手を添えていました。
「窓からずっと立ちすくんでいる姿が見えましたからね。気になって見にきたのよ」
まとめた髪に少なくはない白いものが混じっていて、でも、優しげな瞳で、その人は微笑みました。
「あの……っ、わたし、その」
やっかいなもので、優しくされると余計に涙は滝のようにあふれだして。
ろくに説明もしないまま、わたしはその人に連れられて、『栞の園』の中に入っていました。
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