第39話

 彼は軽く、わたしのほっぺをつついて。

 つつかれた頬がむぅ、と無意識のうちにふくれます。

「星崎さんにとって、わたしは子どもなんですか」

「それはそうだよ」



 あっさりと肯定されて、うう、ダメージ大きいです。

「幸せになってほしい小さな子かな」

 小さな子って、一応もう高校生なのにな。

 わたしとしては、男の人を手玉にとるような妖艶な女性にも、かなり憧れがあるのですが。

 そう、名探偵シャーロック・ホームズを出し抜いたプリマドンナ、アイリーン・アドラーのような。



「さ、もう日も暮れるから、夢ちゃんもそろそろ帰らないと」

 またおいで。

 そう言って立ち去りかけた彼の袖を、ふいにわたしはつかみました。

「もし……、謎を解いたら」

 彼が、振り返ります。



「そしたら、わたしとデートしてくれますか」



 天井の窓から射しこむ夕日に照らされて、漆黒の瞳がオレンジに光っています。

 いつも守ってもらうだけじゃなくて。

 対等に渡り合って、ときに彼を守っちゃったりできるような。

 もしわたしにそんな力があったら。

 そんな想いが頭をもたげたのでした。

 ふっと彼は夕日で淡い色になった口元を緩めました。


「いいよ」


 空になった段ボールを右腕に沿えて。

 どこか楽しげに、片目をつむりました。

「楽しみにしているよ、小さな探偵さん」

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