Act14.夢未 ~主役不在の一人舞台~

第29話

 栞町から電車で二駅行ったさきにある、奥付駅ビルの地下街。

 おしゃれなガラスのテーブルのカフェで、わたしは少しだけ緊張した胸を上下させました。

 気分を落ち着かせるためにメニュー表をかかげて、浮かんでくるのはなぜか、星崎さんの顔でした。

 心の中の彼はどうしてか困ったような顔をしてこっちを見ています。



 ごめんなさい。

 わたしは、心の中で彼に向かって頭を下げました。

 星崎さん、ごめんなさい。



「夢未」

 名前を呼ばれて、顔を上げました。

 お仕事終わりなのでしょう、そこにはスーツ姿で、薄くお化粧をして、髪を後ろで一つに束ねた女性の姿がありました。

「よかった。元気そうね」

 正面の椅子にかばんを置いて、女の人はどこか疲れが残る顔で微笑みます。

 あぁ、そう、この顔。

 笑うとほとんど目がなくなったようになるこの人の顔を見たら、懐かしさの甘い汁が胸から湧き出して、広がっていきました。

 覚悟を決めて、心の中の彼に改めて報告しました。

 星崎さん。

 わたし、お母さんに会いにきました。

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