第24話

 男は明らかに面食らう。

「なんだよ、あんた覆面警察かなんかか」

「いいえ」

 星崎さん、と自分を呼びそうになる夢未を目で制し、短くそう答えると、男は濁った笑いを浮かべる。

「彼女は、父親に騙されてやってきただけなのです。今日は連れて帰らせていただきます」

 夢未の手を引くと、彼女のもう片方の手が、つかまれる。

 脂肪ののった醜い手だ。

「そんなの知ったことか。父親に金だって支払ってるんだ。十万の損失、どうあがなってくれるってんだ!」

 突如出された大声に、夢未の肩がびくりと震える。

 そして別の意味で、幾夜の肩も小刻みに震えだす。

 育ての親は、武闘の心得をひととおりしこんでくれたが、生まれてこの方、人に暴力をふるったことはなかった。

「警察じゃないってんなら、とめられるいわれはないね」



 暴力と武闘とは違うと教えられてきて。

 そう、疑いもせず信じていたが。

 それがこの瞬間、翻る。

「おおありだよ、下衆め」

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