Act12.幾夜 ~復讐王は優しき魂に眠る~
第23話
白い柱と天井が、ベージュ色の壁を包む、若い女性に人気のブティック『クイーンズハート』。
その向かい側の大樹のかげに、サングラスをかけた幾夜はいた。
仕事の休憩時間をずらしてまで、つい来てしまった。
自分のでしゃばることではないと思いつつも、夢未が父親に会うというだけで嫌な予感が頭から離れない。
そっと視線を店の前に戻す。
白い柱の前に、夢未は一人で立っていた。
真夏の今は袖にフリルのついたブラウスに、桃色の生地に白い百合柄のロングスカート姿だ。サイドを三つ編みにした肩までの長さの髪の上に、にベージュのつばつき帽子をかぶって。
普段の制服姿とはちがう、しばし目を止めてしまうほどの華やかさだが、あの服も父親からの贈り物だろうか。
そこまで考えたとき、かすかな違和感がよぎる。
父親と会うのに、現地集合なのか。
あの父親も一応外で働いてはいるということか。
そういうことなら、すこしはよかったと言えるのだろうか……。
などと、考えていたのは、大きな誤算だった。
やってきたのは、大柄な目の細い男だった。
目立たないジーンズに、ベージュのパーカー姿。
父親ではない。
戸惑った顔をしている夢未になにごとか男が囁くと、一方的に手をつないで歩き出す。
されるがままに歩きながら、夢未は呆然としていた。なにを言われたのかわからないというように。
恐怖を覆うショックが去ると、そのフリルに包まれた両肩が激しく震えだす。
頭の中で激しく警鐘が鳴る。
はじかれたように、幾夜は駆け出していた。
二人が向かったさきは案の定だった。
人気のない通りまで、男は夢未を巧みに誘導する。
爪が食い込むほどこぶしをにぎりしめ、幾夜のその衝動がいよいよ抑えがたくなったのは、二人の先に宿泊施設が見えてきたときだった。
二人の前に姿を現した彼は、静かにサングラスをとる。
「その子を、どこへ連れて行くんです」
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