第21話
「高校で演劇部にでも入ればいいんじゃない」
それにつられるようにとなりに腰かけながら、夢未はうつむいた。
「興味はかなりあったんですけど。体験入部でのぞいてみたら、みんなうっすらお化粧してて、制服もアレンジしているような子たちばっかりで。なんか怖くて、ここではやっていけなさそうだなって」
幾夜の口から苦笑気味の吐息が漏れる。
なんとなくわかる。
たしかにその手の今どきの少女たちの中であまりに控えめなこの子がうまくやっていけるとは思わない。
学校でもきっと真面目な生徒なのだろうことは想像に難くない。
校則も明らかに順守しているようだし。
「あれこれ悩んでいるうちに、けっきょく部活に入り損ねちゃって。地味なわたしが舞台に立とうなんて、やっぱり間違ってたんです……」
くふぅとうなだれた犬のように眉毛を垂れるそんな彼女をみていて、こみあげてくるのはもどかしさが三割。
そして大方の七割は、愛しいような、くすぐったいような妙な心地だった。
「そんなことはないよ」
ぴんと子犬が片耳を立てるように夢未がこちらを見る。
「きみは決して地味じゃない。下手に小手先の手段をつかわなくても、人目を引くなにかがあると思うな」
気をよくしたのか、夢未はシェイクスピアの台詞を諳んじる。
「我こそはデンマーク王、ハムレット! 生きるべきか死すべきか、それが問題だ!」
彼女の希望がディズニー映画のヒロインではなく、あくまで文学に登場する雄々しい主人公であるところに笑みが漏れる。
「今日はずいぶん調子がいいんだね」
「はい」
うつむきがちに、夢未は今度ははにかんで。
「今度、お父さんが、買い物に街に連れて行ってくれるって」
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