第19話

 あわわ。

 あやうく、コーヒー牛乳を本にこぼしてしまうところでした。

 わたしくらいの年の女の子って、だいたい、こういう話が好きみたいです。

 困ったなとごまかすように窓の外の校庭を見やります。

 わたしだってこういう話はきらいではないけれど、自分に関するそういう問題をだれかに話すのははじめてでした。



「ちがうよ。わたしはただ、児童書が読みたいから読んでるんだけど、その人と話すのも同じくらい楽しいっていうか。あれ……? それじゃ違わないのかな」

 よくわからなくなります。

「ちょっとちゃんと考えなよ。青春は一度きり。こういうの大事だよ」

 いつもぼけっとしてるんだから、と小言のおまけにわたしの頭まで小突くと、ふいに、彼女は机をたたきました。

「そうだ」



 いたずらを思いついたように彼女はぺろりと唇をなめると、机の引き出しからなにかを取り出しました。

 使いかけのA4のノート。途中まで英単語が書かれています。自習用に買ったものの挫折したということのようです。



「これで恋バナしようよ。毎日回さなくてもオッケー。相談事があるときとか、気が向いたときに、書いてまわすってどう」

「え」



 星崎さんのことを書くのか。

 ちょっと、すごく、恥ずかしいけど。

 図らずも、なんだか楽しそうと思ってしまいました。



「待って。てことは、ももちゃんにもいるの? 好きな人」

 にっこり笑って、彼女は、

「それはまぁ、おいおい書いていくよ」

 見事に交わしました。

「なにそれ、ずるいー」

 そのときにはわたしの胸には、書きたい気持ちの文章の羅列が渦巻いていました。

 文庫本を開いたままずっと会話していたことに気づいて、あわてて閉じると、わたしはお昼休みの友達との会話を再開しました。

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