第18話

「『アルプスの少女』。それって、ハイジ?」



 高等学校の教室、お昼の調達から戻って来たクラスメートの女の子が向かい側の席に座りながら、問いかけてきます。

「うん」

「相変わらず好きだね、本」



 ポニーテールの似合う彼女はくっきりした顔でにっこり笑います。

 高校に入ってから、仲のいい友達が一人、できました。

 チアリーディング部で時期部長候補として先輩にかわいがられ、同輩からもとても信頼されている、はきはきしていて快活な女の子。わたしとは正反対のタイプですが、唯一の共通点が、本好きというところ。

 図書室でよく現代ものやミステリーを借りている彼女に話しかけられて、ためしに児童文学をおすすめしてみたら見事、はまってくれて、それから友達になったんです。



「そういえば夢はさ、なんで、こういう本読むようになったの?」

 買ってきたいちごミルクをストローですすりながら、彼女が言います。

「小学生くらいでも今どきこの手の古典ってやつ? がっつり読んでる子って少ないと思うんだよね。今ふうのイラストが描かれた本とかいくらでもあるし」

 たしかにそうです。

「昔両親がくれたから」

「それが未だに好きなんだ」

 少し、考えます。

「今でも読んでるのは」

「のは?」

 ちょっとためらったのち、小さな声で言います。

「いつも行く本屋さんによく知ってる人がいて、児童書に力入れてるからかな」

 彼女は長いまつ毛に縁どられた大きな目を、追求するように細めます。



「男の人?」

「そうだけど」

 友達はにっと笑いました。

 ちょっと意地悪な笑いでも、華やかな子が笑うとかわいいです。

「なに、その人と話すために、読んでるの?」

「ええっと」

 また少し、考えます。

「いっしょに話すのは楽しい。すごく。本のことも、ほかのことも」

「ふーん。夢って男に興味ないのかと思ってた」

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