第10話

 とつぜん、どうしてそんなことを訊かれたのか、わからなかったけれど。

 考えてしまったのは、ときどき、心の隙間にひっそりと、そういう気持ちが入り込むことがあったからでしょう。

 とくに、夜、静かなときとか。

 前は、お父さんはわたしのこと好きって言ってくれてた。それなのに、どうしてきらいになっちゃったのかな。わたしが悪い子だったのかなって。

 話しているうちに気がつくと、六方の棚から本が何冊か取り出されて、中心にある木のテーブルの上に並べられていました。



 右から、『赤毛のアン』『小公女』『長靴下のピッピ』『アルプスの少女』『あしながおじさん』。



「夢ちゃんは、この本にでてくる主人公たちは、好き?」

 問いかけに誘われるように本の前へと進みながら、星崎さんの質問に、すぐさま答えます。

「はい」

 お姫様のように優しいセーラ。馬を持ち上げられるほど力持ちのピッピ。アルプスの草原を薄着でかけまわるハイジ。すてきな学校生活を手紙につづるジュディー。

 それぞれ違うけど、みんな大好きです。

「ここで問題です。この本の主人公たちにはある共通点があります。なんでしょう」



 いきなりなクイズに、首をかしげます。

 でもその答えは、主人公たちの名前を見ているとすぐに、わかりました。

「みんな、お父さんとお母さんがいない……」

 星崎さんは頷きました。

 春のお日様のように優しい目が、こっちを見つめています。

「でもとてもいい子たちだ。彼らのように、きみにもいつか、わかってくれる人が現れるから。 それまで待っていて」

 そう言うと、突然思い出したように、いけない、今日は会議だったと言って、お仕事に戻っていきました。

 こみあげてくる笑いを抑えながら、いつしかテーブルに備え付けられた低い椅子に座り込んで、わたしはうとうとしていました。

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